●ユダヤ教(→p.44、47、53) 古代イスラエルの民が、神(ヤハウェ)から特別に選ばれて結んだとされる「契約」を基盤とする宗教。『旧約聖書』、『タルムード』を聖典とし、そこに記された律法(トーラー)と預言書の教えを重視する。
●『旧約聖書』(→p.44、45) ユダヤ教、キリスト教、イスラームの聖典。紀元後90年頃にパレスチナで成立。39書からなり、ユダヤ教では「律法」(トーラー、モーセ五書)、「預言者」、「諸書」の3つに分類される。「旧約」とはキリスト教徒から見た表現。
●ヤハウェ(→p.44) ユダヤ教における唯一絶対の神。天地万物の創造主。他の神や偶像の崇拝を禁じ、ヤハウェのみを神とするように命じた。キリスト教、イスラームも同じ唯一神を基盤とする。
●選民思想(→p.44) ユダヤ教にみられる、多くの民族の中から、神によってイスラエルの民が特別に選ばれたという思想。ユダヤ教徒は、神の特別な選びに応えるためとして、様々な迫害の中でも神の契約を信じ、神の教えである律法を遵守してきた。
●預言者(→p.44) 神から特別の使命を授けられ、神の言葉を預かり、人々を導く存在。サムエル、イザヤ、ホセア、エレミヤ、エゼキエルらがいる。その活動と教えは『旧約聖書』の預言書などに記されている。
●十戒(→p.44、157) もとは「十の言葉」を意味する。神がモーセを指導者に選び、エジプトからイスラエルの民を脱出させた際に、石版に刻んで民に授けた十の教え。偶像崇拝の禁止や安息日の遵守などが記されている。
●律法(トーラー)(→p.44) イスラエルの民が神との契約を信じて生きるために神が授けた教え。「モーセ五書」(「創世記」、「出エジプト記」、「レビ記」、「民数記」、「申命記」)にまとめられた。
●救世主(メシア)(→p.44、46) ヘブライ語のマーシアハに由来し「油を注がれた者」という意味。注油は、祭司 、預言者、王に授けられる特別な儀式であった。現実の王に失望した古代イスラエルの人々は、神の派遣する理想の王(メシア)による救済を待望した。メシアはギリシア語では「キリスト」といい、イエス・キリストとは、「イエスがキリスト(救い主)である」という信仰告白でもある。
●律法主義(→p.46、49) 律法を、宗教的場面だけでなく、社会・政治・文化・生活のあらゆる事柄に適用される原理・規則・基準とし、律法を忠実に守る人間だけが救われるという考え。ユダヤ教徒は迫害により故郷や神殿を失い、律法によって独自の共同体を維持していた。
●神の愛(アガペー)(→p.46、50、72) アガペーはギリシア語で愛を意味する言葉。キリスト教では特に、神の愛を意味する。人間の優秀さや美しさにひきつけられる愛(エロース)ではなく、人間の弱さや汚さを受け入れ、包み込む無償の愛である。隣人愛もアガペーと呼ぶ場合がある。
●神の国(→p.46) 本来は神の支配を意味する。イエスは、この世の権力の支配ではなく、神の支配による神の国がこの世に実現すると教えた。それは神の愛に満ちた世界の実現であり、神を信じる者の心の中に実現するという。
●福音(→p.46、47) ギリシア語のエウアンゲリオンに由来する言葉で、「よき知らせ」を意味し、イエスの教えをさす。イエスの教えは『新約聖書』に、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネによる4つの福音書として残されている。
●隣人愛(→p.46~48) 「隣人を自分のように愛しなさい」という教え。この教えはすでにユダヤ教の律法にあったが、イエスはその「隣人」の範囲を同じ民族や血縁者・仲間にとどめず、外国人・敵対者にまで拡大した。
●山上の説教(→p.47) イエスがガリラヤ湖畔の丘で人々に授けた教え。「心の貧しい人々は幸いである」とし、神以外に何も頼るもののない、貧しく、弱く、迫害される者こそが神の国に受け入れられると教え、祝福を与えた。
●黄金律(→p.47、73、134) 人間の倫理の根本原理のこと。通常、「人にしてもらいたいことを人にしなさい」、「隣人を自分のように愛しなさい」という、イエスの教えをさす。イギリスの功利主義の思想家J.S.ミルは、これを功利主義道徳の理想として重視している。
●『新約聖書』(→p.47) 「福音書」、「使徒言行録」、「書簡」、「ヨハネの黙示録」からなる。新約は新しい契約という意味で、以前のイスラエルの民との古い契約(旧約)を改め、全人類をイエスによって救う、神の新しい契約を意味する。
●パリサイ派(→p.49) サドカイ派、エッセネ派と並ぶ、イエス誕生当時のユダヤ教の一派。「モーセ五書」だけでなく口伝律法も含めた、複雑で厳格な律法遵守を主張した。福音書ではイエスの論争相手として登場する。
●復活(→p.46、49) イエスはユダヤ教の指導者層に疎まれ、ローマ総督に反逆者として引き渡されて十字架刑に処せられた。しかし、その死の3日後に復活し、弟子たちの前に姿を現したと信じられた。
●原罪(original sin)(→p.45、50) 人類の祖であるアダムとエヴァ以来、すべての人間が生まれながらに持つ根源的な罪のこと。神の愛、隣人愛を認めず、他者を妬み排斥する心などに現れる。
●贖罪思想(→p.50) イエスが十字架上で死を遂げたのは、全人類に代わりすべての罪を背負って犠牲となり、罪を償うためであったとする考え方。贖罪とは罪を償うこと。パウロが説いた。
●三位一体(Trinity)(→p.51) 父と子と聖霊の三つが唯一の神であるという教え。イエスは神の子であり、父なる神と同じく神である。父と子には愛の交流があり、この愛が聖霊なる神である。父と子と聖霊は独立し互いに関係し合う、三にして一なる神であるとされる。
●教父(→p.51) 2~8世紀頃にかけて、キリスト教会の正しい教えをまとめた哲学者・神学者。キリスト教をギリシア・ローマの哲学・文化と対決・融合させながら、キリスト者の信仰を導き、その思想は教父哲学と呼ばれる。
●恩寵(Grace)(→p.51) もとは無償という意味。神が人間に対して無償で与える賜物全体を意味し、生命、罪の赦し、信仰、義しい生き方、特別な能力などが神の恩寵としてとらえられる。アウグスティヌスは、人間は神の恩寵によってのみ救われると説いた。
●スコラ哲学(→p.52) スコラはラテン語で学校という意味。西欧中世の学校、特に大学で行われた学問研究をスコラ学といい、その哲学部門をスコラ哲学と呼ぶ。哲学は理性によって、倫理、自然、神、言語の全体を扱う学問であった。