●生命倫理(バイオエシックス)(→p.276) 医療技術や生命工学の発達により、生命にどこまで人為的な操作が許されるのかを考える必要から成立した倫理。哲学、宗教、道徳、法律、医療、社会学など様々な分野の知識を総合して考える。
●クローン技術(→p.276) ある個体とまったく同一の遺伝情報を持つ個体(クローン)を作る技術。クローンはギリシア語で小枝という意味。1996年、イギリスで、ほ乳類初のクローン羊ドリーが誕生した。日本ではクローン技術に関連する法律として、2001年にクローン技術規制法が施行された。
●ES細胞(embryonic stem cell)(→p.276) 胚性幹細胞。様々な細胞に分化・増殖させることができ、臓器や組織を作製できる可能性を持つため、再生医療で注目されている。受精卵の初期にあたる胚を用いることによる倫理的問題が指摘されている。
●遺伝子組換え(→p.276) ある生物から取り出した遺伝子を他の生物の中に組み込み、人為的に新しい性質を与えること。遺伝子組換え技術は農作物への利用など、食料問題の解決も期待されているが、人間や家畜などの生物に対する安全性の問題も懸念されている。
● i PS細胞(induced Pluripotent Stem cell)(→p.277) 人工多能性幹細胞。様々な細胞への分化が可能で、ES細胞と同様、再生医療などへの応用が期待されている。人間から体細胞を採取し、それに遺伝子を導入することで、細胞を未分化の状態に戻すという方法で作製される。受精卵を利用せずに得られるため、ES細胞の持つ倫理的問題を解決できると期待されている。2007年に世界で初めてヒトの皮膚細胞からヒトiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授は、2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
●代理出産(→p.277、281) 自分の子として育てるために、代理母に妊娠・出産してもらうこと。用いる生殖技術により、いくつかの類型に分けられる。
●リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(→p.277) 性と生殖に関する健康・権利。カイロで開かれた国際人口・開発会議(1994)で提唱された。特に女性の性や健康を基本的権利として尊重し、妊娠や出産が差別や強制などを受けないよう、その権利を保護しようとする考え方。
●脳死(→p.278) 脳幹を含め、脳全体の機能が失われた状態。人工呼吸器により酸素を送ることで、脳全体の機能が停止しても人工的に生命維持ができるようになり登場した概念。
●臓器移植法(→p.278) 1997年に成立。脳死の人からの臓器の提供を認めた法律。正式には「臓器の移植に関する法律」。日本では、臓器移植法の制定により、臓器移植に関してのみ脳死が人の死とみなされるようになり、脳死者からの臓器提供が認められた。2009年の改正により、本人の意思が不明の場合、家族の承諾のみで臓器提供が可能になった。
●自己決定(→p.279) 自分の生き方や生活について自由に決定すること。憲法の第13条「個人の尊重(尊厳)・幸福追求権」を根拠として自己決定権を主張する動きもある。尊厳死など医療の問題と関連する。
●SOL(Sanctity of Life)とQOL(Quality of Life)(→p.279) SOLは生命の神聖さ(尊厳)のこと。人間の生命は絶対的な価値を持ち、尊いものであるという考え方。QOLは生命の質、生活の質のこと。おもに医療の場で、患者がどれだけ人間らしく尊厳を保つ生活ができ、自分らしい生活をすることができているかをとらえる概念。二つの立場から、どのような場合でも延命し続けるのか、生命の質を追求するのかが議論されている。
●インフォームド・コンセント(→p.279) 本人の意志に関わりなく、本人の利益をはかろうとすることをパターナリズム(父権的温情主義、父権主義)と呼び、医療の場では、医師が患者の意向に関わりなく、患者の治療方針を決めることをさす。しかし現在では、患者の自己決定が尊重されるようになり、患者が医師から自分の症状や治療方針について十分な説明を受け、それを理解したうえで同意するインフォームド・コンセントが主流となっている。
●ホスピス(→p.279) 終末期の医療・看護を行うターミナル・ケアを実施する施設。在宅のターミナル・ケアのことをさす場合もある。延命治療は行わない。もとはヨーロッパで旅の巡礼者を宿泊させた教会をいう。
●リヴィング・ウィル(→p.279) 延命措置を打ち切るか否か、臓器提供の可否など、自分の死の迎え方について、生前に行われる意志表示のこと。また、その意思表示を記録したもの。
●安楽死(→p.279) 病気が末期状態にある患者本人の意志に基づいて、安らかな死を迎えさせること。医師が薬物投与などにより積極的に死に至らしめる積極的安楽死と、肉体的苦痛を緩和した結果、副作用などで命を短縮する間接的安楽死がある。積極的安楽死を認める国は限られており、日本では容認に慎重である。
●尊厳死(→p.279) 治癒の見込みがない患者に対して、本人の意志に基づき、人工呼吸器などによる延命措置をやめて、人間として自然な死を迎えさせること。自然死ともいう。