用語解説 p111-119_社会契約の思想

自然法(natural law)(→p.111) 自然や人間を支配する普遍的な規範。これを人間の作る法律より上にあるものと理解する古代ギリシア(特にストア派)以降の思想を自然法思想と呼ぶ。中世では自然法は神の命令と理解されたが、近代では社会契約の思想家が、宗教とは無関係に理性によって理解可能なものとしてとらえられるようになった。

社会契約(social contract)(→p.111) 国家の存在しない状態(自然状態)では、人々が自己の利益のために互いに契約を結んで国家を作り出すだろうと推論することで、国家の存在意義を説明する思想。

王権神授説(→p.112) 政治権力は王が神から直接授けられたものであり、制限されることのない絶対的な権力であるとする政治思想。中世ヨーロッパに起源を持ち、絶対主義の時代には国王の絶対性を擁護するために用いられた。社会契約の思想家の批判の対象となった。

自然権(natural right)(→p.112) 人間が生まれながらにして持っているとされる権利。グロティウスやホッブズ、ロックなど17世紀の近代自然法思想の思想家が唱え始めた。ホッブズやロックは自然権を実現するために、社会契約を結んで国家を設立することが必要だと考えた。

自然状態(→p.112) 社会契約思想において想定される、国家・社会が存在しない状態。ホッブズはこれを戦争状態、ロックの場合は比較的平和な状態、ルソーは平和で自由、平等な状態であると想定する。

「各人の各人に対する戦争状態〈万人の万人に対する闘争〉」(→p.112) ホッブズの考える自然状態。人は互いに攻撃し合う(あるいは攻撃されるという危険を感じる)状態にあり、絶え間ない恐怖と死の危険におののいているとされる。

『リヴァイアサン』(→p.113) ホッブズの政治思想の代表作(1651年)。リヴァイアサンとは『旧約聖書』ヨブ記に出てくる海の怪物の名前。

所有権(property)(→p.114) 人が財貨や自らの身体に対して持っている固有権(プロパティ)=所有権のこと。ロックは、身体やそれと不可分な生命・自由だけでなく、身体を用いて労働を加えたものも、自己に固有の所有物(財産)であると自然法が定めているとし、所有権を擁護した。

抵抗権・革命権(→p.115、251) ロックが認めるべきだと主張した権利。抵抗権とは政府に侵害された人民の権利を回復し擁護する権利で、革命権とは政府(立法府を含む)を別のものに代える権利。

「自然に帰れ」(→p.117) ルソーの思想を簡潔に表現したものとしてしばしば用いられる言葉。彼が自然状態を自由で平和な理想的状態として描いたことに由来する。なお、ルソー自身はこの言葉を用いてはいない。

一般意志・特殊意志・全体意志(→p.117) ルソーの用語。
一般意志…共通の利益をめざす意志。個人の集合体である主権者の意志をさす。
特殊意志…個人の利害関心。全員の特殊意志が偶然一致した場合は全体意志と呼ばれる。しかし、それは一般意志とは異なるとされる。

直接民主主義(→p.117) ルソーの理想とした民主主義の形態。ルソーによれば、間接民主主義体制における市民は選挙の時にのみ自由であり、それ以外は不自由である。そこで、市民全員が参加して一般意志を形成する市民集会を開き、この意志に基づいて立法が行われるという直接民主主義を理想とした。

『百科全書』(→p.118) ディドロとダランベールが編集者として、不合理な世界を変革するために、技術・科学から社会・宗教・芸術に至るまでの最先端の知識を集めまとめた事典。ヴォルテール、モンテスキューら当時の著名な科学者、哲学者が多く執筆に参加した。

啓蒙思想(Enlightenment)(→p.119) 不合理な因習・伝統や不平等な社会制度を批判し、理性によって人間を解放しようとする思想。17世紀の終わりから18世紀後半にかけてイギリスやフランスを中心としたヨーロッパ諸国に広がった。

『法の精神』(→p.119) モンテスキューの主著。権力の暴走を防ぐためには三権分立が必要だとする。また、法律のあり方は地域によって多様であることを指摘した。

三権分立(→p.119) モンテスキューが指摘した、行政権、立法権、司法権が相互に独立し抑制するというイギリスの国政のあり方。モンテスキューはイギリスではこれによって自由が守られていると主張した。ロックも権力分立を主張しているが、立法権が執行権と連合権に優越するとした点で、三権の平等を基礎としたモンテスキューとは異なる。現在、多くの国が三権分立を採用している。