7 近代日本の思想

1 明治の啓蒙思想
①文明開化の思想家……西洋近代思想の紹介
明六社……1873(明治6)年、森有礼、中村正直、西周、津田真道、加藤弘之、西村茂樹、福沢諭吉らが結成
 『明六雑誌』の発行、演説会の開催などで天賦人権論など西洋近代思想を紹介

福沢諭吉(1835~1901)
主著『学問のすゝめ』『文明論之概略』『西洋事情』『福翁自伝』
封建的身分制度批判……「門閥制度は親の敵で御座る」
天賦人権論……「『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』と云えり」
実学を奨励……「東洋になきものは、有形において数理学(実学)と、無形において独立心」
独立自尊(自主独立)の精神……「一身独立して一国独立す」
官民調和論……自由民権運動を批判
晩年は国権主義の傾向を強める→脱亜論

2 自由民権思想……天賦人権思想とその実現への道筋
中江兆民(1847~1901)
主著『民約訳解』(ルソー『社会契約論』の漢文訳)『三酔人経綸問答』
東洋のルソー……ルソーの人民主権論を継承
君民共治論……人民主権であれば、君主がいても問題ない
恩賜的民権……為政者から与えられた民権
回(恢)復的民権……革命などで人民が勝ち取った民権
日本の当面の目標……立憲君主制を実現し、「恩賜的民権」を「回復的民権」に変えていく

②植木枝盛(1857~92)
主著『民権自由論』
「東洋大日本国国憲按」起草……君主の権限の制限、基本的人権の無条件の保障、抵抗権の規定、一院制議会など

3 キリスト教の受容……キリスト教徒としての愛国のあり方を模索
①内村鑑三(1861~1930)
主著『基督信徒の慰め』『余は如何にして基督信徒となりし乎』
二つのJ……イエス(Jesus)と日本(Japan)。「武士道に接木されたるキリスト教」
不敬事件(1891)……教育勅語奉戴式で、天皇を神として礼拝することをキリスト教徒として拒否
非戦論……日露戦争に際し、絶対平和主義を主張
無教会主義……教会や儀式にとらわれない、聖書による個人の内面的信仰

新渡戸稲造(1862~1933) 『武士道』で日本の伝統的精神を海外に紹介。国際連盟事務局次長として世界平和に献身

③新島襄(1843~90) キリスト教に基づく自由教育を唱え、京都に同志社英学校を設立

植村正久(1857~1925) 天皇を神格化しようとする国家主義的風潮に対して、政教分離を理由に抵抗

4 国家意識の高まり……政府の欧化政策への反発を背景として
①徳富蘇峰(1863~1957)
民友社設立。雑誌『国民之友』、新聞『国民新聞』を発刊
平民主義(一般民衆に基盤を置く近代化)→日清戦争前後に国家主義に転向

②国粋主義(国粋保存主義)……三宅雪嶺、志賀重昂らが政教社を設立し、雑誌『日本人』を創刊して主張
 三宅雪嶺(1860~1945) 日本および日本人の持つ優れた個別性(国粋)の保存を主張
 志賀重昂(1863~1927) 『日本風景論』で、日本の自然の美しさが他国に比類ないことを称える

陸羯南(1857~1907)
新聞『日本』発刊
国民主義……日本の国情や伝統の美点を保持しつつ、漸進的な改革を進める

④北一輝(1883~1937)
昭和初期の超国家主義者
『日本改造法案大綱』で、天皇を絶対とする国家への改造を主張
二・二六事件(1936年)の首謀者として処刑される

5 社会主義思想……日清戦争後の社会問題を解決する新思想として登場
幸徳秋水(1871~1911)
主著『廿世紀之怪物帝国主義』『社会主義神髄』
平民社を設立、『平民新聞』で日露非戦論を唱える→渡米を経て帰国後、議会主義を否定する直接行動論を主張
大逆事件(1910)で天皇暗殺を企てた首謀者として処刑される

②日本の社会主義思想
二つの立場
 キリスト教に基づく人道主義の立場……片山潜、安部磯雄、木下尚江ら
 中江兆民の民権論の継承……幸徳秋水、堺利彦ら
社会民主党(社会主義、民主主義、平和主義)結成(1901)→直ちに禁止

6 近代的自我と文学……文学を通した個人と社会の関わり方の模索
夏目漱石(1867~1916)
主著『三四郎』『それから』『門』『こゝろ』『明暗』『私の個人主義』
西洋=内発的開化→自己本位
日本=外発的開化(明治の日本の開化)→他人本位
「自己本位」に根ざす個人主義……エゴイズムを克服し自他を尊重
晩年……「則天去私」(小さな私を去り、運命のまま大きな自然に従って生きる)

森鷗外(1862~1922)
主著『舞姫』『ヰタ・セクスアリス』『雁』『高瀬舟』
諦念(レジグナチオン)……自我の問題を社会や周囲の状況の中でとらえる立場
かのように……事実ではない神などを事実であるかのようにみなすことで社会秩序は成り立つ

③浪漫主義運動……封建的風土から個性や自我を解放、自由な感情や豊かな想像力を重視
北村透谷(1868~94)……『文学界』創刊、文学的内面的世界(想世界)に自我の実現と自由を求める
与謝野晶子(1878~1942)……『明星』で活躍、「君死にたまふこと勿れ」で日露戦争批判

④自然主義文学……自分自身の内面を直視して赤裸々な人間の姿を描く→私小説へ
島崎藤村(1872~1943)……『文学界』で浪漫派詩人として活躍、『破戒』で自然主義文学の代表的作家となる
石川啄木(1886~1912)……自然主義の歌人。大逆事件を機に『時代閉塞の現状』を著し、社会主義へ

白樺派……文芸雑誌『白樺』、武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎
徹底的な個人主義とそれに基づく人道主義

7 女性解放運動……新しい女性観と女性の地位向上をめざす
①岸田俊子(1863~1901)・景山(福田)英子(1865~1927)……自由民権運動に参加、男女同権を主張

平塚らいてう(1886~1971)
女流文芸雑誌『青鞜』を創刊(1911)……「元始、女性は実に太陽であった」
良妻賢母主義に反発……女性自身の意識の変化と、女性の地位向上を求めた
母性保護論争(VS 与謝野晶子)
市川房枝(1893~1981)らと新婦人協会設立(1920)

8 大正デモクラシー……民本主義と大衆運動の高まり
①吉野作造(1878~1933)
主著「憲政の本義を説いて其有終の美を済すの途を論ず」
大正デモクラシーの理論的指導者
民本主義……主権の所在よりもその運用を重視→国民の福利の向上をめざす

美濃部達吉(1873~1948)……天皇機関説に基づき、政党内閣制を主張
天皇機関説……国家が統治権を持ち、天皇はその最高機関だとする憲法学説
天皇機関説事件(1935)……天皇機関説が貴族院で取り上げられ、天皇を侮辱するものだと一大政治問題に発展