8 現代の思想

①フロイトとユング……無意識の発見と精神分析
・フロイト(1856~1939)
 主著『精神分析入門』『夢判断』
 精神分析……精神の深層のコンプレックスを対話、連想、夢判断などの分析によって発見し、神経症などを治療する方法→無意識の領域を発見
 エス(イド):快楽原則に従う無意識の性衝動、超自我:無意識的な良心/自我:現実原則に従う意識
・ユング(1875~1961)
 主著『心理学的類型』『心理学と錬金術』
 集合的無意識……個人的な経験を超えた人類共通の普遍的な無意識→元型(アーキタイプ)で構成

②生の哲学……知性だけでなく情意的なものを含んだ生の思索
・ベルクソン(1859~1941)
 主著『創造的進化』『道徳と宗教の二源泉』
 純粋持続……異質なものが互いに浸透しながら、時間的に継起する実在としての意識
 生命の躍動(生の飛躍、エラン・ヴィタール)……持続する宇宙の生命の創造と進化の力

③現象学……人間の意識に現れる現象をありのままに記述することで、世界が意味として現れる状況を解明
・フッサール(1859~1938) 世界が無条件に存在するという確信を停止(エポケー)→現象学的還元を主張

④フランクフルト学派……人間の理性に対する懐疑、ファシズムの分析など批判(的)理論を展開
・ホルクハイマー(1895~1973)
 主著『啓蒙の弁証法』(アドルノとの共著)『道具的理性批判』
 道具的理性……単なる技術的な「手段」となってしまった理性⇔「目的」をめざす理性
・アドルノ(1903~69)
 主著『啓蒙の弁証法』(ホルクハイマーとの共著)『権威主義的パーソナリティ』
 権威主義的パーソナリティ……他者の権威に従い、自らの権威への服従を強要するファシズム的性格
・フロム(1900~80)
 自由から逃れるため依存や従属を求めるメカニズムを分析
 主著『自由からの逃走』
・ハーバーマス(1929~)
 主著『公共性の構造転換』『コミュニケーション行為の理論』
 対話的理性……圧力をかけることなく対話を交わし、相互理解に到達し公共性を築こうとする理性

⑤反全体主義の思想
アーレント(1906~75)
 主著『全体主義の起原』『人間の条件』
 人間の活動的生活を〈労働〉〈仕事〉〈活動〉に分け、公的領域での政治・言論的な〈活動〉を重視
レヴィナス(1906~95)
 主著『全体性と無限』
 全体性を超越した他者の存在の無限性を他者の「顔」と表現

⑥正義論……「公正としての正義」をロールズが提唱、現代における正義についての理論を喚起
・ロールズ(1921~2002)
 社会契約説を現代的に再構築し、公正な分配を考える
 主著『正義論』
 格差原理……不平等は最も不遇な立場にある人々の利益を最大化することによってのみ容認される

⑦現代の政治哲学
リベラリズム……個人の政治的自由と大きな政府による社会的な正義を重視 ロールズ
リバタリアニズム(自由至上主義)……政治的自由と小さな政府による経済的な自由を重視 ノージック
コミュニタリアニズム(共同体主義)……共同体の伝統の中の共通善を重視 マッキンタイア、サンデル
ケアの倫理……苦しみや痛みを持ち自立できない他者のケアを前提にした政治のあり方を重視 ギリガン

⑧大衆社会批判の思想家
・ウェーバー(1864~1920)
 主著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
 官僚制(ビューロクラシー)……大規模な組織を効率的に運営するための仕組み
・オルテガ(1883~1955)
 主著『大衆の反逆』
 大衆の反逆……自分が凡庸であると知りつつ開き直り、学ぶ姿勢や努力を軽視する大衆の出現
・リースマン(1909~2002)
 主著『孤独な群衆』……伝統指向型:伝統を生き方の基準とする性格。内部指向型:禁欲・勤勉の重視。他者指向型:他者に受け入れられることを目標とする性格

⑨潜在能力論……潜在能力という概念で福祉の問題を考察
・セン(1933~)
 個人の生活の様々な機能の全体で、選択できる生き方の幅=潜在能力(ケイパビリティ)

⑩構造主義……差異や関係性に着目し、人々の意識や社会の枠組みとしての構造を分析(ソシュールが源流)
レヴィ=ストロース(1908~2009)
 主著『親族の基本構造』『悲しき熱帯』『野生の思考』
 野生の思考・神話的思考……未開とされる社会の人々の思考。西洋の思考とは方法が異なるが本質的には同じ
フーコー(1926~84)
 主著『狂気の歴史』『言葉と物』『知の考古学』『監獄の誕生』『性の歴史』
 狂気の歴史……理性と狂気の対概念は、狂気が理性によって分割・排除されて作られたことを解明

⑪ポスト構造主義……構造主義を発展・継承しつつ、構造主義そのものも批判
・ドゥルーズ(1925~95) 社会を欲望の抑圧から理解する精神分析を批判し、社会を欲望する諸機械として分析
・デリダ(1930~2004) 西欧哲学の根底にある二項対立的な階層秩序を解体する方法(脱構築)を主張
・リオタール(1924~98) 真理や革命など近代の「大きな物語」が終焉した現代をポストモダンと定義
ボードリヤール(1929~2007) 現代の消費社会は商品を記号として消費する差異の体系であるとした
・サイード(1935~2003) 西洋人の西洋中心主義的な「オリエント」像であるオリエンタリズムを批判

⑫分析哲学……言語の論理的分析によって哲学的な問題の解決をめざす
ウィトゲンシュタイン(1889~1951)
 主著『論理哲学論考』『哲学探究』
 前期:哲学の問題は、言語に対応する実体をもたないため「語りえぬものについては、沈黙せねばならない」
 後期:言語は定義や意味が先にあるのではなく、自分と他者が活動する言語ゲームの中で意味が生じてくる

⑬科学哲学……科学を対象として哲学的考察を行う学問
・ポパー(1902~94) 科学は反証に対して常に開かれているという反証可能性を科学の条件とした
・クワイン(1908~2000) 人間の知識と信念はつながりあった一つの構造体だとするホーリズムを唱えた
・クーン(1922~96) 科学者たちが一定期間共有する科学的理論の枠組みをパラダイムと定義