7 実存主義とプラグマティズム
1 実存主義
実存=「現実存在」として主体的に生きる人間のあり方
・今まさにここに生きる、ただ一人の「私」の存在やあり方を探る思想⇔客観的な対象としての「人間」や、交換可能で大衆の中に埋もれる「ひと」を批判
①キルケゴール(1813~55)
主著『あれか、これか』『不安の概念』『死に至る病』
・主体的真理……客観的真理ではなく「それのために生き、そして死にたいと思うような」自分にとっての真理
・実存の三段階
1)美的実存(享楽的)→2)倫理的実存(道徳的)→3)宗教的実存
・単独者……神の前にただ1人で立ち、自由とともに生じる責任を神の前で受け取る宗教的実存のあり方
②ニーチェ(1844~1900)
主著『悲劇の誕生』『ツァラトゥストラはこう言った』『善悪の彼岸』
・「神は死んだ」……宗教的価値を否定するニーチェの言葉
→従順や博愛などのキリスト教道徳=奴隷道徳、強者へのルサンチマン。19世紀末ヨーロッパの頽廃(受動的ニヒリズム)の原因
・超人……無意味・無目的な世界で、力への意志により新しい強者の価値を創造する、理想の人間のあり方
・世界は無意味な繰り返し(永劫回帰)だが、その苦悩の中で目標のない人生を引き受け、愛することが運命愛
→能動的ニヒリズム=超人の生き方
③ヤスパース(1883~1969)
主著『精神病理学総論』『哲学』『理性と実存』
・限界状況……死・苦・争い・罪責のような、人間が変えることも逃れることもできない絶望的な状況
限界状況への直面・挫折により自己の有限性に気づき、人間を超越した大きな力・存在(超越者)へ目を向ける
→自らの存在の根拠を超越者に求め、超越者と向き合う(超越者への飛躍)→本来の実存の回復
・実存的交わり……実存する者同士が互いのあり方を検証し合う関係=「愛しながらの戦い」
④ハイデガー(1889~1976)
主著『存在と時間』『形而上学とは何か』
・現存在……自分が存在することを了解し、存在そのものに驚き、存在の意味を問う主体である人間存在
・世界-内-存在……気づいた時には理由なく世界の中に投げ出され、物や他者と関わって生きる現存在
・ひと(世人、ダス・マン)……死への不安をまぎらわすため、気晴らしや享楽に逃避して主体性を失った現存在
⇔死への存在である人間は、その不安に向き合う死への先駆により、実存の本来性を回復
投企……自己の可能性に向けて自らを投げ出し、本来的自己を生きようとすること
・存在忘却……存在の真理の忘却
・故郷の喪失……存在という自らのよりどころを見失った状態
⑤サルトル(1905~80)
主著『嘔吐』『存在と無』『実存主義とは何か』『弁証法的理性批判』
・「実存は本質に先立つ」……人間存在(実存)にはあらかじめ本質が与えられているわけではない
→人間は未来に向けて自らを投げ出し(投企)、自分自身の本質を自由な決断で自ら選び取る
・アンガージュマン(社会参加)……自分自身と人類全体への責任を負いつつ社会と関わる
自分自身の選択は、全人類のあり方の選択につながる→アンガージュマンによって社会を変えていく
・「人間は自由の刑に処せられている」……人間の自由な決断によって負う全世界への責任は、孤独・不安をもたらす
⇔不安から逃れるために自由を放棄することなく、責任を引き受ける必要
2 実存主義の展開
①カミュ(1913~60)
主著『異邦人』『シーシュポスの神話』『ペスト』『反抗的人間』
・不条理の哲学……人生に意味がないからこそ生きるに値する
②ボーヴォワール(1908~86)
主著『招かれた女』『第二の性』
・「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」
3 プラグマティズム
・観念を行為との関連でとらえ、現実に即した実践的な知性の活動をめざす思想運動
・アメリカの開拓者精神を反映→実用的で有用なものこそ真理
①パース(1839~1914)
主著『概念を明晰にする方法』
・ギリシア語の「プラグマ(行為・行動)」から命名したプラグマティズムを提唱
・プラグマティズムの格率……概念は実験などの行為と、その観察可能な結果によって明らかにできる
②ジェームズ(1842~1910)
主著『心理学原理』『プラグマティズム』『宗教的経験の諸相』
・パースの思想を紹介し、プラグマティズムを広い思想運動として展開
・真理の有用性……ある観念が有用な結果をもたらす役立つものである限り真理
→実験で結果を確認できない宗教的な観念をも、有用である限り真理として擁護
③デューイ(1859~1952)
主著『学校と社会』『民主主義と教育』『哲学の改造』『論理学』
・プラグマティズムを教育学、心理学、政治学、倫理学など多様な領域で大成
・民主主義の実現は教育によってもたらされると考え、教育の改革を推進
・道具主義……人間の知性は人間がよりよく環境に適応し、よりよい生活を営むための道具
・創造的知性(実験的知性)……道具としての有用性を持つ知性=人間が問題を把握し、解決するために役立つ道具
・問題解決学習……知識の暗記ではなく、実生活で問題を発見、解決する学習→「なすことによって学ぶ」