(トルコ・イスタンブール)
今石 尚 さん
大成建設
■仕事の内容は?
人口1,400万人を超えるトルコ最大の商都イスタンブールは,ボスポラス海峡によって街が西のヨーロッパ側と東のアジア側に二分されています。しかし,東西をつなぐ橋が2つしかないため,慢性的な交通渋滞とそれに起因する大気汚染に悩まされていました。この問題を解消するために,ボスポラス海峡を横断する地下鉄トンネル工事がスタートし,私は陸上部トンネル工事の責任者を務めました。1860年にも同様の構想があったことから,このプロジェクトは「トルコ150年の夢」とも呼ばれていました。
■仕事で苦労した面は?
歴史の街イスタンブールの地下には多くの遺跡が眠り,地上には築年数100年を超える建物がたくさんあります。地下鉄工事を進めるためには,埋蔵文化調査を行って遺跡の調査・保存に協力し,多くの建物の健全性を維持しながら,トルコの文化や歴史を守る必要がありました。そのため,当初予定していた5年の工期が9年に延びてしまいました。また,世界初の技術的試みやトルコ初のトンネル技術の適用など,工事の技術的難易度も高く,苦難の多いプロジェクトでした。
■仕事で気を付けていたことは?
初めにトルコの歴史や文化を学び,触れることで現地の人々との融和を目指しました。たびたび開催される現地社員との会食で親交を深めることもありました。トルコはイスラームの戒律が緩やかで,ワインなどのお酒を飲むことができます。このように,現地の人々の心を知るために共に喜び,共に悲しみながら仕事に取り組みました。
■海峡横断鉄道トンネルが完成した時の心情は?
トルコ共和国建国90周年記念日の2013年10月29日に工事が終わり,海峡横断トンネルが無事開通を迎えました。その時に現地の方から感謝の言葉を投げかけられ,土木技術者でよかったと心から思いました。トルコを離れる際,私を送ってくれたトルコの人たちの笑顔が今でも私の宝物です。