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特集A 社会形成体験型授業の実践 〜「公共」導入を見据えて〜
広島女学院中学高等学校教諭 安宅 弘展
   
1. はじめに

 本稿の目的は,新設される公民科目「公共」を見据えながら,スーパーグローバルハイスクール(以下SGH)指定以降本校で実践している授業実践を紹介することである。

 中教審によると,「公共」では「国家・社会の形成者として必要な選択・判断の基準を形成し,それを使って主体的な選択・判断を行い,他者と協働しながら様々な課題を解決していくために必要な力」を育成することが目的とされている。そのために,社会形成・社会参加と自身の生き方を結び付けて考えられるような,課題解決型の学習活動の必要性が指摘されている。その例としては,「討論,ディベート,模擬投票」などが挙げられ,連携すべき専門家・機関として「弁護士,NPO」などが列挙されている。これは,「公共」では知識の習得はもちろん,主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の手法を積極的に活用し,地域社会や公共機関,大学などとともに学ぶことを強調するものであろう。つまり,「教室で社会を学ぶ」ことを基盤としつつ,「教室を社会にして学ぶ」ことが求められていると言えよう。このような学びの意義づけ・学びのかたちは,SGH指定校として本校が構築したカリキュラムと,非常に親和性が高い。

 2014年に本校はSGHに指定され,これまでの特色教育を再構築して平和構築(核軍縮)を中核とした課題研究授業が実施されるようになった。2015年からは,意識が高まった生徒を選抜した高1〜高3対象の選択科目「Global Issues(以下GI。単位認定としては公民)」を新設した。ここでは,「公共」のヒントとなる授業が実践されている。

 以下,本校が育成したい人物像とその資質・能力,そのような人物を育むSGH課題研究カリキュラムを説明する。各学年で実施している課題研究と,生徒を選抜して実施している選択科目GIにおける授業実践を紹介し,これからの「公共」にどのようにつながるか検討したい。




2. 広島女学院中高のSGHカリキュラム

(1)グローバルリーダーとは

 本グローバルリーダーという概念自体は非常に多様である。その中で本校が定義とするグローバルリーダーとは,「平和構築(核軍縮)に貢献する人物」である。その背景には,被爆し多くの犠牲者を出したという本校の歴史がある。平和構築(核軍縮)には,価値観の鋭い対立が存在し,合意形成は容易ではない。グローバルリーダーには,対立構造を論理的に理解し,コミュニケーションを通じて考え方の違いを乗り越え,問題解決のために協働する資質・能力が求められる。その資質・能力として,平和観,対話力,リーダーシップを同定した。以下,その定義を説明する。

 平和観とは,どうすれば平和を構築できるかという視点から論理的に個々の事象を関連付け,課題の全体像を理解する視点である。ローカルなものも,グローバルなものも,社会課題は単独で生じているのではなく,一つひとつが関係しあっている。これらを個別に理解するだけでなく,個々の課題が関係しあっているものとしてとらえようというホリスティックな視点をもつことで,国内外の複雑な社会課題を正確に理解し,適切な解決策を導くことができる

 対話力とは,価値観の違う他者と,コミュニケーションを通じて合意形成しようとする態度である。国内外の社会課題を考察するとき,どのようにして解決にアプローチするのか,そもそも何を課題として認識するのか,価値観は極めて多様である。そこで自らの主張を絶対視して討議で勝利しようとするだけでは,社会に分断を生じさせてしまう。グローバルリーダーに求められるのは,勝敗をつけるのではなく,他者尊重を基盤とし,公正な対話を通じて最善解を創り,合意形成を行うことである。

 リーダーシップとは,バックキャスティング志向,すなわち何が理想なのかをまず明確にし,それに向かって現実を変えようと行動することである。現実を先に見てできそうなことをするのではなく,どうすれば理想が実現できるかから行動を逆算し,チームで協働しながらムーブメントを起こすことが,グローバルリーダーに求められる。

 この3つの資質・能力は,平和構築(核軍縮)という課題に限らず,グローバル社会を生き抜くために不可欠なものであり,先述した「公共」のめざすところと共通点が多い。

 次に,このような資質・能力をもった生徒を育成するため,本校で中1〜高3まで総合的な学習の時間(1単位)において展開している課題研究“Peace Studies”(以下PS)を簡潔に説明する。図1は,6年間のPSで取り扱うテーマや授業形式,研修内容を図にしたものである。



▲図1 課題研究“Peace Studies” 6か年の構造
※図をクリックすると拡大した図が表示されます。

(2)6年間の課題研究

 このカリキュラムにおいて各学年に共通しているのは,「価値観の異なる他者と出会う」「コンフリクトを疑似体験する」「対話を通じて最善解を創出する」ということである。生徒たちは,足元の広島で何が起こったのかを継承することから学びを始める。それだけに留まらず,広島をめぐっては多様な視点があり,決して広島の経験を伝える=平和=正解というわけにはいかないことも学ぶ。その上で,自分なりの解を出していくというのが中学の流れである。高校では,中学の学びを基盤に,広島以外の国内外のコンフリクトを学ぶ。テーマは,カンボジア,沖縄などである。ここでも,当事者の痛みに共感しつつ,課題解決をめぐる様々な論点を俯瞰的にとらえ,対話を通して最善解を創出していくという構造をとっている。そして,核軍縮を最終テーマとして再度とらえなおしてPSを完成する。

 これらのPSの授業は基本的にアクティブ・ラーニングのかたちをとっている。教師が解説を入れることもあるが,知識のインプット・アウトプットとも生徒主体の言語活動によって展開していく。教師が過度に介入し,「正解」を教授するかたちにしないよう注意している。

 各学年のPSでテーマとなっているフィールドに,実際に足を運ぶ国内外の研修も組み込まれている。例えば,アメリカ・アジアの視点から原爆をとらえる中2では韓国研修があり,韓国の高校・大学生と平和について討論する。高1でも,カンボジアを訪れ大学や中高で過去の経験の継承と克服という視点から議論する。

 国内外の研修やPSには,大学などと連携してプログラムを組んでいる部分もある。先述した韓国研修・カンボジア研修では,事前・事後学習において大学を訪問して研究者・学生と研修内容を練り,フィードバックを得ている。PSにおいても,教材の作成や生徒の論文を審査してもらうかたちで大学と連携している。

 2014年度より,伝統的に実施していた「平和教育」をグローバル教育という文脈で再構成し,新たなスタートを切った。その中で非常に意識が高まった生徒が育ってきたことを受けて,2015年度より選抜授業“Global Issues”(GI)を開設した。

 このGIやPSは「公共」と重なる理念をもっており,「公共」の授業にも応用可能な実践が行われている。次の章では,2つの授業実践を紹介する。GIで実践した国内の社会課題を理解するための「国家予算編成アクティビティ」と,高3PSで実践した国際政治を核軍縮という視点から理解する「核軍縮交渉ゲーム」である。




3. GIの実践

(1)GIの概要

 GIは,中3の終わりに希望者を選抜して開講している選択授業である。本校では,高1で「現代社会」2単位を必修授業として開講している。GIに選抜された高1生徒は,「現代社会」と同時開講しているGIの授業に出席し,別のカリキュラムで授業に臨む(単位認定としてはGIも「現代社会」)。GIの授業は二つの要素から成り立っている。1単位分は,広島市立大学・広島平和研究所よりロバート=ジェイコブズ教授をお招きし,国際政治・核軍縮分野を英語で講義してもらう。もう1単位分は本校教員が担当し,政治・経済分野などをアクティブ・ラーニングのかたちで学びを深める内容となっている。高2・高3でも選択授業としてGI1単位を開講しており,国内外の社会課題を探求する学びを実施している。


(2)国家予算編成アクティビティ    授業実践例@
対象:
高3 17名
授業目標:
@財政という視点から,“ 日本の今” を知る
Aプレゼン力・交渉力・コミュニケーション力を高める
B「正解」のない問いに対し,他者とビジョンを共有し「合意」を形成する力を高める
授業の展開:
1〜4時間目 国家予算編成
5〜6時間目 自由に予算を編成
7時間目 財務省中国財務局広報担当によるレビュー,プレゼン
8時間目 各政党政策比較
9時間目 レポート作成

アクティビティの概要

 生徒には,以下のようにルールと場の設定を説明した。

 「ここは架空の国,“GI国”の政府会議室。みなさんは,内閣を構成する各大臣です。いよいよ,次年度予算案の編成会議が始まりました。各大臣の手元には,官僚が作成した予算の概算要求書・資料が届いています。限られた条件の中で,より善いGI国を建設するために,最適な予算案を編成してください。

 みなさんの目標は,自らの管轄する省庁により有利になるよう,予算を勝ち取ることです。一方で,独善に陥らず,国家予算全体のバランスにも配慮する必要があります。会議は原則として全会一致で議決されます。しかし,各大臣の意見が対立した場合,最終的に政府予算案を決定する権限は内閣総理大臣に与えられています。

 各大臣には,条件によって「得られる/失われる」VP(Victory Points)がいくつか設定されています。最終的に,もっとも多くのVPを獲得した大臣が,ゲームの勝者です。」

1時間目

 人数の都合上,生徒を2つのグループ(内閣)に分け,総理,財務,外務,文科,国交,厚労,経産,農水,防衛,の9人の大臣を任命し,資料を配布した(図2参照)。人数の関係上一部の省庁は割愛し,あらかじめ教員が予算を設定した。

 この時間,生徒はアクティビティのルールと目標を理解し,資料を読み込みこんだ。時間の最後に,大臣として担当部署の概算要求額とその根拠を2分でスピーチし終了した。



▲図2 各大臣への指示  例:財務大臣
※図をクリックすると拡大した図が表示されます。

2時間目

 前回のスピーチを受け,各内閣でオープンディスカッションを行った。概算要求額を合計すると120兆円あまりの予算額になった。しかし,各大臣の主張は平行線で,どの分野でも妥協は進まなかった。時間の最後に,両内閣の総理に一時間の議論の内容を全体に報告してもらった。



▲図3 予算編成会議の様子 各大臣の主張がぶつかり合う。

3時間目

 内閣でのディスカッションが行き詰まってきた頃,以下のように助言した。「すべての政策には理由があり,不必要と言えるものは少ない。しかし,すべてを実現することはできない。そこで,何を優先して実現すべきなのか,プライオリティを考えよう。まず,優先すべき政策を決めてみてください。」二つの内閣は,政策の優先順位を議論していった。

【二つの内閣の優先順位】

 ・内閣A:震災復興,少子化対策,安全保障
 ・内閣B:少子化対策(女性支援),経済対策,教育

4時間目

 冒頭,両内閣の総理にそれぞれの国の優先順位ベスト3を発表してもらった。その後,各大臣が交渉の中で妥協し合い,予算の合意形成にこぎつけた。



※ここでは,消費税率は1%引き上げるごとに税収が2兆円増えるものとして考えてよいと設定した。実際には所得税,法人税,社会保険料の負担率など多様なオプションがあることを,財務省中国財務局の方に解説していただいた。

5時間目

 両内閣が完成したそれぞれの予算とその意図を説明するとともに,各大臣がそれぞれの資料を公開し,VPを計算し表彰した。国家予算編成アクティビティに区切りがついたところで,ここからは大臣の責任から離れて自由に議論し,自分たちなりの予算作成に移行した。その際,やはり政策の優先順位を決めるために,国家としてどのようなビジョンを持つか,どんな国を理想として考えるのかが重要であると指摘した。議論のきっかけとして,生徒に「2050年の日本」がどうなっているか,「理想のシナリオ」と「最悪のシナリオ」を考えてもらった。

理想のシナリオ

 ・少子化に歯止めがかかり,充実した社会保障
 ・周辺諸国との平和な関係,核廃絶の達成
 ・新しいイノベーションが起こり,経済成長

最悪のシナリオ

 ・少子高齢化がさらに進み,社会保障が崩壊
 ・周辺諸国と戦争になる
 ・格差がさらに広がる

 二つの内閣が「理想」「最悪」をそれぞれ発表した。ここから,「最悪」を回避し「理想」を実現するには,どの分野の政策を優先すべきなのかを検討し,国家予算を作成するよう指示し議論していった。


6時間目

 グループで自由に予算を作成しそれを共有した後,個人でも予算作成した。できあがった予算は,財務省中国財務局の広報担当の方に送り,専門的な見地からのレビューと日本政府の姿勢ついて模擬授業を依頼した。


7時間目

 財務省中国財務局では,無料で財務・予算編成について講師派遣・模擬授業を行っている。広報担当の方に本校までお越しいただき,専門的な視点からレビューをいただいた。レビューでは,生徒個々人の予算案のうち,教育・社会保障を増額,安全保障・インフラ整備などを現状維持,増額分を増税で賄ったものが6割,大半の予算を現状維持し増税分を国債償還に充てるものが2割,増税せず予算全体を削減し国債償還に充てるものが2割という分析がなされた。これに対し,財務局の方は海外の事例を紹介された。ドイツでは憲法にあたる法律で財政均衡を義務付けていること,イギリスでは大胆に公共サービスを削減した緊縮財政をとったことなどである。財政の健全化と公共サービスの質とのバランスをどうするか,若い世代として考えてほしいという宿題をいただいた。生徒からは,以下のような感想が寄せられた。


・国民一人一人の生活を考えると,何の分野の予算を減らしていいかわからなくなるのは当然だと思った。私たち一人一人が日本の危機を感じ取り,関心を持ち,選挙へちゃんと行くことが日本の財政を建て直すには不可欠であると思いました。

・自分が理想とする国を作りたいと思ったら選挙に行くべきだというよく言われる言葉の意味が今回の講演を通してよくわかりました。

・今まで選挙とかって,考えることがたくさんあってよく分からないと思っていたけど,実際に有権者として,投票するのが楽しみになりました。


8時間目

 これまでの学びと現実の政治をつなぐ活動として,各政党のパンフレットの比較・採点を行った。自民,民進,公明,維新,自由(パンフレットは生活時代のもの),社民,共産の各政党の県支部にご協力をいただいて生徒の人数分の政策集を用意した。生徒には,国家予算編成アクティビティの際に担当した分野を横断的に分析し,持ち点10点を配分するよう指示した。例えば,厚生労働大臣だった生徒は,各パンフレットの社会保障政策の部分だけを読んで比較する。そして,自民4点,民進2点,公明0点,維新2点,生活0点,社民0点,共産2点などと持ち点を自由に振り分ける。採点の基準は,これまでの議論を通じて形成してきた生徒たちの国家ビジョンとその実現のための政策である。自分たちのめざす国家観にかなっているか,道筋は具体的で実現可能性は高いかなどを審査していった。

 各大臣が点数を割り振った理由を説明した後,各政党が獲得した点数の合計と実際の議席数を比較,もし次の選挙で投票するとしたらどうするか話し合った。


9時間目

 これまで学習した内容を踏まえ,レポートを作成した。題は「日本の財政が抱える構造的な問題を論じよ。その際,政府が担うべき公共サービスのあるべき姿はどのようなものかという視点を盛り込め。」

 ある生徒のレポートを一部紹介する。


・日本には大きく分けて二つの構造的な問題があると考える。一つ目は,少子高齢化社会に対応できる制度が成り立っていないことである。年々高齢者の数が増え,その人数を支える労働者の負担が増えている。この連鎖は続いていき,負担割合も増えていくと考えられる。二つ目は,日本が抱える債務の問題だ。現在の日本の債務残高はGDPの2倍を超えており,主要先進国の中で最悪のレベルにある。他の先進国を見てみると,債務問題が存在することには変わらないが,政策には違いがあることがわかった。それは,強制力のある制度や法の有無だ。例えば,ドイツは日本と同じように高齢化が進む中でも社会保障支出の伸びを抑制できている。世界的に見て,日本の政府が担う公共サービスはヨーロッパの国々に比べて少ない。税率を上げてでも,社会福祉にあてる予算を少しでも増やす必要があると思う。

・日本の国家予算編成においては,各省が担当するカテゴリーの予算を集めて最終案を決定する。このシステムは一見合理的に見えるが,日本が抱える問題全体に目が向けられているのかは不明瞭である。つまり,日本の財政において,共通認識がきちんと埋め込まれていないがゆえに引き起こされる“ 国作りのコンセプトのあいまいさ” が問題なのである。


(3)核軍縮交渉ゲーム    授業実践例A
対象:
高3全体 223 名
授業目標:
@交渉体験を通じて,グローバル化の進む世界で必要なコミュニケーション能力,思考力を身につける
A交渉と資料を通じて,核軍縮の基本的な知識と考え方を身につける。
B自国(自分)の利益や他国(他者)の思惑を調和させ,真偽のはっきりしない情報を取捨選択する中で,「目標」の達成に向け粘り強く努力する姿勢を養う。

アクティビティの概要

 高3の生徒をランダムに5つの教室にグループ分けし,40 名程度の「国際社会」を形成,1か国3名前後・12 か国を設定する。生徒は架空の国の国連大使に任命され,「核実験の禁止」「核不拡散」について合意形成することをめざす。それぞれの主張は大きく異なる。生徒たちは,ディベートや交渉を通じて主張・妥協し合い,条約の締結にこぎつけていく。最終的にどのような内容の合意がなされるか,なされないかは生徒たちの判断に委ねられている。本格的な模擬国連とまではいかないが,その要素を取り入れた入門的な活動となっている。


他教科との連携

 高3が学年全体でこの交渉ゲームを実施するのに前後して,他教科でもこの課題研究と連動する授業を組んでいる。「英語」では,自由英作文の課題として最終的な小論文サマリーを書く。「現代文」では,小論文の基本的な書き方を扱う。「政治・経済」や「日本史」・「世界史」では,この時期に国際政治や近代史が学習範囲となる。交渉ゲームを一つの中核として一部の授業が連動することで,生徒が一つの課題を多角的に理解し,知識を統合的に運用する力をつけるねらいがある。


1時間目

 40名前後の生徒を12か国に分けておき,「政府からの指令書・会議のルール」を配布する(図4参照)。生徒たちはグループで資料を読み込み,アクティビティの目的・設定を理解し,大使としてトップラインとボトムラインを確認する。大使たちは自国の政策を「交渉ペーパー」に書いて黒板に掲示し,他国との自由交渉(模擬国連のunmoderated caucus を模した形式)を行った。



▲図4 交渉ゲームのルール(上)とねずみ国への指示(右)
※図をクリックすると拡大した図が表示されます。

2時間目

 核保有国,非核保有国,核開発をすすめる国などいくつかのグループが形成されていった。グループで何を話し合っているか共有するために,適宜全体での討論(moderated caucus を模したもの)を行い,情報共有と質疑応答を進めた。


3時間目

 条約を可決するため妥協に向けて交渉し合い,多数派工作が行われていった。あらゆる核実験を禁止したい非核保有国と,核実験の余地を残したい核保有国の溝,さらに核開発を進める国をどう位置づけるかが焦点となっていった。


4時間目

 最終的な交渉の結果,二つの条約案が提出された。核実験については,地上・海中が禁止されたものの,地下核実験が可能であるという提案となった。核不拡散については,世界から孤立し核開発をすすめる国を核保有国として認める代わりに国際社会の監視下に置き,段階的に核軍縮を課すという内容になった。



▲図5 交渉の様子 生徒たちは教室を自由に行き来しながら交渉を展開。

5時間目

 グローバル・クラスルームが作成した資料などをともに,実際に行われてきた核軍拡・核軍縮の流れを学習し,レポート課題を確認した。広島市立大学・広島平和研究所の水本和実教授より以下の小論文課題を出題していただいた。


 2015年にニューヨークの国連本部で開催されたNPT再検討会議では,各国の利害が衝突し,核軍縮に関する合意文書を採択できなかった。このような世界情勢を踏まえると,核保有国や非核保有国は,どのような合意を形成していくべきだと考えるか。あなたの掲げる「理想」と「現実」に触れつつ,自身の考えを800字以内で記せ。


6時間目

 小論文を執筆する時間とした。生徒が書いた小論文は,水本教授に審査していただき,いくつかを表彰した。以下,そのうちの一つを紹介する。


 「私が考える『理想』は,無論『核兵器のない世界』だ。しかし,世界の『現実』は,核保有国が核を手離すことを拒み,そうしている間に情勢の不安定な国が秘密裏に新たな核兵器を開発している。

 今の『現実』は,私や多くの人が望む『理想』とはかけ離れているようにみえる。この状況下で,核保有国や我々のような非核保有国はどのような合意をすべきだろうか。その答えは,核兵器に視点を置くのではなく,核兵器を開発する必要がある世界の状況に視点を合わせることで得られると考える。

 核兵器は何のために作られるのだろうか。無論,戦争のためだ。しかし,実際に戦争のために使用されたのは,二回だけである。アメリカによるヒロシマ・ナガサキへの原爆投下だ。他の理由は,自国と緊張状態にある国への威嚇,自国を守るため,自国を強い国にするため,他国との交渉で優位に立つため,世界の中で自国の存在感を示すだめである。これらは,関係悪化を引きずっていたり,自国の貧困や世界的地位の低さによって起因するものだと考えられる。この根本から変えなければ,『理想』はだたの『理想』に終わり,たとえ核兵器を廃絶しても,同じような問題が絶えることなく発生する。きれいごとかもしれないが,交渉によってそれを解決することが一番効果的で現実的だ。

 よって,核保有国と非核保有国は,核兵器開発のバックグラウンドにある問題解決を優先して取り組み,『核のない世界』のために『核を必要としない世界』を作るべきだ。それには,遠回りに思えるが,『交渉』による平和的解決が必要不可欠である。これが,『理想』を『現実』にするための第一歩だ。」




4.「公共」を見据えて

 「ここまで,本校のSGHカリキュラムとその中で実践している授業例を紹介した。これらの授業に共通しているのは,ロールプレイ型のアクティブ・ラーニングを取り入れていることである。このことが,生徒の社会形成・社会参加への意識を高め,系統的に知識を学習する意欲に火をつけることにつながると思われる。これは,「公共」で求められていることに応用できる点がある。

 内閣府の調査では,日本の若者は自分の力で社会を変えられるという意識が比較的低い。その状態で,多くの知識をインプットしようとしても,モチベーションを高めることが難しいと考えられる。では,生徒が「自分の行動次第で社会を変えられるかもしれない」という希望を抱き,「もっと政治や社会のことを知りたい」という意欲が刺激されるようにするにはどうすればよいだろうか。

 その実践例として紹介したのが,今回の授業である。これらの授業では,生徒たちが「大臣」や「国連大使」などの役割を果たすことを通じて,社会形成・社会参加を疑似体験する仕様になっている。生徒の振り返りからは,自分たちが生きる社会に多くの課題や対立構造が存在すること,それが自分自身にも大きな影響を与えるものであることを経験的に理解したことがうかがえた。そして,「国会議員に任せきりではいけない」「私たちのような若い世代が,ちゃんと未来を考えるべきだ」「もっと知識をつける必要がある」というコメントが寄せられた。このように,アクティビティに必要な最低限の知識をインプットし,ロールプレイを通じてまずコンフリクトを経験し,社会形成・社会参加の意欲を高めた上で再びインプットに切り替えることで,知識習得を円滑にすすめることができる。これは,今後「公共」を実施していく際にも有効な方法だと思われる。

 先述したように,「公共」新設の背景として,社会参加への消極性,国内外の社会課題に対する理解の不足やそれらと自己とを結びつけて考える力の弱さ,課題解決型授業の少なさが挙げられている。それを乗り越え,他者とともに主体的に社会形成を担おうという意識や力をつけようというのが「公共」新設の目的である。それはその通りであろうが,実際に日々の授業をつくっていくにあたり,生徒参加型の課題解決授業をすべて担当教師が自作するのには多くの労力が必要である。今後,「公共」を見据えた授業実践をこのような場に持ち寄り,学校や地域を超えて共有することで,負担の軽減や質の向上をはかっていく必要がある。本稿が少しでもそれに資することができれば幸いである。




1 第100 回中央教育審議会 配布資料5-4(2015 年8月)「高等学校等における教科・科目の現状・課題と今後の在り方について(検討素案)」より(文部科学省ホームページ
2 2017 年度広島ESDコンソーシアム研修会分科会における,日本体育大学 池野範男教授の講演(2017年7月31日)
3 第6回全日本高校模擬国連大会 議題解説書(グローバル・クラスルーム日本委員会ホームページ
4 「特集 今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの」(内閣府『子ども・若者白書 平成26年版』,http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26gaiyou/tokushu.html