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連載 中学校での情報教育
エデュカーレNo.20より
第1回 中学校の情報教育はどのような教科書を使っているのだろう?
第2回 中学校ではどのような授業がおこなわれているのだろう?
第3回 中学校ではどのような情報教育が求められているのだろう?
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<INDEX>
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岐阜県羽島市立羽島中学校
校長 横山 隆光
 警察庁広報資料によると,2007年度上半期のいわゆる出会い系サイトに関係した事件として警察庁に報告のあったものは907件であり,被害者のうち18歳未満の児童は85.3%と大半を占めている。ケータイから利用する学校裏サイトやプロフなどによるネットいじめの問題も深刻であり,子どもがネットいじめの被害者や加害者となっている。小学校低学年からの情報モラル教育が求められている。そこで,多くの小中高等学校は情報モラル教育を総合的な学習の時間や教科などに位置づけて実施しようとしている。また,各自治体の教育センター等でも小中高等学校教員を対象とした情報モラル教育の研修が進められている。
 しかし,次々と登場するプロフやSNSなどの新しいサービスを利用する子どもが増えるのに伴って新たな被害が心配され,情報モラル教育で扱わなくてはならない内容は増える一方である。さらに,小中高等学校における情報モラル教育は,各学校で作成されたカリキュラムに従って実施されており,小学校・中学校・高等学校間で指導内容が重複したり,指導内容によっては十分に指導されなかったりする事態が生じている。小中高等学校一貫した体系的な情報モラル教育が求められている。
 小中高等学校一貫した体系的な情報モラル教育のカリキュラムは,子どもの実態に応じて作成する必要がある。そこで,我々は県内の小中学校を中心に実施されている情報モラル教育のカリキュラムを調査した。また,2004年7月に県内高校生1〜3年生610人を対象にした質問紙法による情報モラルの実態調査を実施した。これらの分析に加え,2004年6月に岐阜県教育委員会が実施した県内小中学校教員10,625人と高等学校教員2,839人を対象とした調査結果の分析から,カリキュラムを作成するにあたって次の事項に配慮しなくてはならないことが明らかになった。これらの状況は現在でも変わっておらず,カリキュラムの改善にあたって配慮すべき事項であると考えている。
(1)子どもにつけるべき力として特に取り上げる必要があるもの
子どもが情報機器を扱う場合,表示された内容はいつも正しく,入力した情報はほかにもれないと信じてしまい,情報の受発信に関わる危険性をまったく認知していない場合がある。まして,情報社会においては悪意のある他者による詐称が高度になり,情報を意図的に操作したりねつ造したりすることが簡単にできるようになっているため,子どもが日常生活の中で家庭にいながら被害者となったり,自覚のないまま加害者となってしまうことがある。これらの被害を防ぐには,情報モラルの指導だけでは不十分であり,情報に対する的確な判断力を身につけることが必要である。
発達段階に応じて,小学校での指導の上に立って中学校技術分野「情報とコンピュータ」で情報伝達のハード面についての基礎的な知識を習得しながら,スキミングなど情報機器そのものの取り扱い方や危険性を知って利用する力を付ける等,ハードウェアに関する情報モラルの育成をはかっていく必要がある。
中学生・高校生になるとケータイ等の情報端末を所有する割合が高くなり,定額制等のサービスの普及に伴いケータイを日常的に利用する生徒が増えている。メールや掲示板への書き込み等は,匿名で行う場合がほとんどであり,匿名性故の無責任さや悪意をもった書きこみや情報発信がなされる場合もある。これらの危険性を知った上での心の教育がますます重要となる。
一人一人の子どもが情報機器を活用して学習活動を行い,調査,実験,実習や問題解決を行い,時間を確保して,体験を通して情報機器の有用性とともに機器を利用する際に気をつけることを学んでいくようなカリキュラムが大切である。
(2)校種間・学校間の連携と指導計画について
情報モラルは情報機器を利用するときにだけ関係する特別な内容ではなく,私たちが生活している情報社会における知っていて当然のモラルの問題として,関連する教科,総合的な学習の時間等で扱うべきである。
小学校では,学校生活において体験を通した心の教育を重視し,情報モラルとの連携を考えながら指導する必要がある。情報モラルに関わる指導は,現状においても,教科,道徳,特別活動においてなされている。道徳で高められた価値観,教科や総合的な学習の時間で学んだ情報機器の扱い方や利用方法,学級活動や帰りの会等で指導する相手の気持ちを考えた話し方や聴き方等を関連づけながら,体験を通して小学校1年生の段階から指導していく必要がある。
小学校においては,情報手段に慣れ親しみ,適切に活用する学習活動の充実に主眼をおいて,情報モラルの指導に関わる時間を増やすとともに,教科,道徳,特別活動に情報モラルに関わる内容を関連づけ,1〜6年生の指導計画に位置づける。また,評価の仕方を明確にし,この評価を中学校に引き継ぐようにする。情報化の影の部分への対応や情報モラル等の指導を指導計画・評価計画の中に位置づけて,危険性の認知や人に迷惑をかけないことについては,小学校低学年の段階から計画的に指導を行っていく必要がある。
情報機器を使った学習を,常に扱いが堪能な教員に任せてしまうのではなく,情報機器を利用した方が効果的な場面においてはどの教員もが積極的に授業で活用し,必要に応じて計画的に情報モラル教育を行うことが必要である。特に小学校においては,情報モラル教育を一部の教員に任せるのではなく,どの教員も適切に,体験を通しながら実施していくことが大切である。
多くの教員が情報モラルに関するカリキュラムづくりと家庭への啓発活動が必要だと考えており,そのためのカリキュラムを小中高等学校の教員が連携して作成する必要がある。ここで,問題になるのが情報モラル教育の学校間格差である。同じ小学校どうしでも学校によってネットワーク環境,教員の知識・技能,カリキュラムが異なっており,これらの学校から中学校に進学した生徒には技能面・知識面・意識面において差が見られる。そこで,それぞれの学校での指導内容がわかるように,学校もしくは市町村教育委員会ごとにウェブ上で公開するといったようなしくみがあり,学校間においてその差を少なくしたり,その差を知った上で情報モラル教育が展開されたりすることが必要である。
(3)研修の充実
ほとんどの教員が情報モラルにつながる「相手を思いやる心」「信頼」「謙虚な心」等の指導を行ってはいるが,情報モラルの内容について知っている教員が少ないことから,連携の必要性とともに情報モラルについての研修を深めることが必要である。
情報モラルの中で,掲示板への書き込み,チャットの参加,セキュリティ対策等について,体験していない教員が多く,指導する以前に,それらの危険性を認識し,その危険性を回避する方法を知り,危険性を回避するための指導法を工夫する必要がある。また,教員の体験が少ないものについての研修コースやプログラムの充実が必要である。
ケータイの操作やウェブサイトの閲覧・利用,携帯端末を利用した決済等,子どもの知識・技能が教員を上回っている場合がある。これらのハード面やソフト面,サービス体制の進歩はめざましいものがある。機器操作やアプリケーションの利用等においては,教員がその取り扱いに熟練してから指導するというより,子どもとともに操作方法を学んだり,利用方法を試したりしながら学習を進めており,この方法は主体的に子どもが学習に取り組むといった面で成果を上げている。情報モラルについても同様な傾向が見られ,一方で教員の研修を進めながら,一方で体験を通して子どもとともに危険性について学習したり,適切な利用法を考えたりするといった子どもの発達段階を考えた指導体系を検討する必要がある。
(4)地域・家庭との連携
有害サイトへのアクセスを制限したり,保護者へフィルタリングソフトウェアの導入を促したりして有害な情報に容易に近づけないようにすることも必要であるが,一般のインターネット端末やケータイ等から簡単に有害サイトにアクセスすることができ,子どもがこれらを利用して有害サイトにアクセスするようなことが起こっている。インターネット等を介して情報メディアから有害な番組を視聴することも簡単にできるようになり,学校教育だけでこれらに対応することは困難である。学校での情報モラル教育,家庭での指導,行政や民間での対応を明確にして,啓発を進めるとともに連携を図っていく必要がある。
 我々は上述の手順を経て小中高等学校一貫した情報指導計画*1を作成し,各学校での実践を開始した。小中高等学校はウェブサイトの新サービスの登場,機器やネットワークの発展に合わせて,情報モラル教育の指導内容と指導時期を子どもの実態に応じて毎年見直す必要がある。そこで,本校は羽島高等学校や岐阜聖徳学園大学と連携して情報モラル教育の研究を進め,カリキュラムの改善を図っている。カリキュラムは定期的に生徒の実態を調査して改善する必要があるため,連携して実態調査を行った。今回は,中学校1年〜高校2年の掲示板,チャット,ケータイの知識・理解について調査した。調査時期は2006年12月,有効回答数は中学校1年212人,中学校2年231人,中学校3年222人,高校2年180人である。調査は本校と羽島高等学校とで調査項目を共通にし,質問紙法で行った。その結果,全ての調査項目の正答率は,中1<中2<中3<高2と高くなっており,中高等学校で体系的に情報モラル教育を進めると正答率は学年が上がるにつれて高くなることがわかった。
 中学校で実施している情報モラル教育の時間は限られている。中学校で扱わない内容の正答率は中3でも50%前後と低いままである。高等学校は情報モラル教育に関わる内容を教科「情報」等で扱っており,表1に示すように,高等学校で学習した項目は,中学校に比べて正答率が著しく高くなっている。
表1 高校2年の正答率が高まるもの
質問 中1 中2 中3
ブログはインターネット上の日記のようなものなので,個人情報を書き込んでも安全に処理される。 30 33 43 100
手軽に書き込めるのがブログの良さなので,情報の正確さよりおもしろさを優先して書き込む。 27 35 43 96
掲示板の情報はすべて間違っているので信用してはいけない。 27 33 54 90
掲示板に書き込む時には個人情報を守るために他の人のようにふるまう。 21 41 51 90
掲示板は文字しか発信することができない。 23 31 45 92
チャットは知り合いどうしだけが会話するものである。 30 29 44 96
チャットは悪意のある人だけが参加するものなので近づいてはいけない。 30 29 48 93
チャットでメールアドレスや電話番号を書いてもすぐに消えるので大丈夫だ。 34 46 60 97
チャットに個人情報を書き込んでも相手がわかっているので安全である。 31 46 55 96
チャットは短い言葉で情報をやりとりするので互いの気持ちが伝わりやすい。 29 37 50 93
ケータイから書き込める掲示板は保護されているので個人情報を書き込んでも大丈夫だ。 29 47 62 98
チェーンメールを止めてしまうと,サーバの記録から誰が止めたのかわかるようになっている。 15 24 45 92
(正答率の単位は「%」。以下同様)

 一方,中学校で扱っている内容は,中1<中2<中3と正答率が高くなり,中3で正答率が90%前後に達している項目もある。しかし表2に示すように,中3での正答率が70%を下回っている項目がある。これらの項目は高等学校においても扱っていかなくてはならない。
表2 中1〜高2と正答率が高まるもの
質問 中1 中2 中3 高2
掲示板にのっていることは信頼できる情報なのですべて正しいと考えてよい。 71 82 90 97
掲示板の情報はすべて正しいことが選ばれて公開されている。 53 65 78 99
学校の評判を書き込む掲示板には本当のことだったら何を書いてもよい。 48 67 74 96
使っている掲示板がよく使われているか確かめるために,冗談で自殺予告などを書き込んでみる。 54 80 85 96
掲示板では書き込みをした人間が特定されないので,友だちの個人情報なら書き込んでもよい。 54 81 89 98
個人情報を守るために,友だちのIDとパスワードでチャットに参加した。 39 59 69 96
チャットで誰か二人が親しそうに話しているので,からかいの言葉をさしはさんだ。 46 63 73 96
チャットでゲームソフトを売り買いする約束をして相手の言うようにお金を送った。 43 64 75 97
チャットで知り合った人と直接出会うのは相手の人をよく知ることができるのでよいことだ。 46 61 69 96
チャットで知り合った人と出会い,信頼できそうなので自分のことをいろいろ話した。 43 69 75 96
友だちのメール内容を別の友だちにチャットルームを使って教えてあげた。 39 60 71 98
チャットでクラスのある人物の悪口で盛り上がった。 45 68 83 98
ケータイに知らない人からの着信履歴があれば電話して確かめる。 43 63 81 96
ケータイメールを使ってクラスのある人の悪口を回しあった。 41 64 80 97
不幸のメールが届いたので,念のため知らない人のアドレスにメールを送っておいた。 46 67 80 97

 表3は高2になっても正答率が低い項目である。これらの項目については高2以降においても指導を要することがわかる。
表3 正答率が高くないもの
質問 中1 中2 中3 高2
ブログも掲示板の一種である。 17 25 38 49
チャットは相手の人が返事を待っているので,短い言葉になりがちである。 21 25 28 50
ケータイに送られてきたメールを別の人に転送するにはメールを書いた人の許可が必要である。 25 34 44 51
チャットは短い言葉のやりとりをしながら同時に交流するツールである。 13 19 30 51
チャットはじっくり考えて返事を書くことができないので,誤解を招きやすい。 21 27 39 52
ケータイを使いすぎると,費用だけでなく健康面でも悪影響があるとされている。 23 37 36 52
チャットはその場の雰囲気でついつい調子に乗って安易に言葉を使いがちだ 20 21 43 53
他のウェブサイトに掲載されている写真でも許可を得れば使ってもかまわない。 8 14 36 54
掲示板はブラウザから閲覧する仕組みになっている。 3 6 10 54

 図1は,中学校3年のケータイを扱った情報モラルの授業前後の正答率である。授業で扱った内容はケータイであり図1の調査項目を直接扱ってはいない。しかし,ケータイの授業で「相手の気持ちを考える」「自分の身は自分で守る」ことを指導しているため,直接扱った内容以外の調査項目にも影響を与えていることがわかる。
図1
図1 授業後の正答率の変化
 ケータイの所持率は中1になるときに増えている*2。今回の調査においても中高等学校で指導する内容としてケータイの適切な使い方の指導の割合を増やさなくてはならないことがわかった。また,カリキュラムでは中学校で扱っている「携帯電話の必要性・使い方(マナー)・危険性」「なりすましと自己責任」などは小学校に移行させる必要があることがわかった。しかし,小学校で指導しなくてはならない内容がふくれあがるという問題が生じている。現行の学習指導要領において情報モラル教育の時間を大幅に増やすことは難しく,各学校で実施されている総合的な学習の時間等の内容の見直しが必要となっている。
 2007年5月に公表された文部科学省委託事業「情報モラル等指導サポート事業」の情報モラル指導モデルカリキュラムは5つの柱で構成された*2。5つの柱は,(1)情報社会の倫理,(2)法の理解と遵守,(3)安全への智恵,(4)情報セキュリティ,(5)公共的なネットワーク社会の構築である。情報モラル指導モデルカリキュラムは,校種・学年に応じて,5つの柱の中に大目標と中目標を設定している。校種・学年は,L1(小学校低学年),L2 (小学校中学年),L3(小学校高学年),L4(中学校),L5(高等学校)に区分されている。我々は現在,小中高等学校一貫した体系的な情報モラル教育のカリキュラムと情報モラル指導モデルカリキュラムとの統合を模索している。
 本校の体育祭・文化祭などの行事,授業・掃除・合唱などの常時活動は,生徒が企画・立案・運営している。生徒会は正しい使われ方をしていないケータイの問題を生徒会の活動のひとつとして取り上げ,全校の生徒と家庭にはたらきかけることを提案した。生徒会は生徒会議会に,(1)全校生徒のケータイ利用実態をつかむ,(2)全校生徒にケータイの正しい利用ができるようにはたらきかける,(3)保護者にケータイの正しい利用ができるようにはたらきかける,(4)講師を招いて情報モラルの話を聞くことを提案し,ケータイの正しい使い方の取り組み*3が始まった。生徒会は全校の生徒の実態をつかむためにアンケートを実施した。アンケートの質問項目は教員と生徒会で決め,質問紙法で全学級が一斉に行った。生徒会はアンケート結果からできるだけ早くケータイ利用の約束を決め,全校の生徒や家庭に呼びかけていくことを決めた。ケータイ利用の約束はアンケート結果をもとに生徒会・教員・PTAが協議して決めた。生徒会はこの約束をアンケート結果とともに全校に伝え,活動の様子を生徒会ウェブページに掲載し,全家庭に印刷配布した。ケータイ利用の約束は学校が一方的に決めるものではない。ケータイ利用の約束は,生徒会活動の一連の流れの中で,教員のアドバイスを得ながら生徒が約束づくりに参加し,PTAの理解も得ながら三者が協議して決めていくことで効果が期待できるのである。
【参考資料】

*1 http://www.hashima-gifu.ed.jp/˜hashimaj/18moral/index1.htm

*2 文部科学省委託事業「情報モラル等指導サポート事業」,すべての先生のための「情報モラル」指導実践キックオフガイド,日本教育工学振興会(2007)

*3 http://www.hashima-gifu.ed.jp/˜hashimaj/seitokai/hashimaj/keitai/index.htm

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