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連載 中学校での情報教育
エデュカーレNo.20より
第1回 中学校の情報教育はどのような教科書を使っているのだろう?
第2回 中学校ではどのような授業がおこなわれているのだろう?
第3回 中学校ではどのような情報教育が求められているのだろう?
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学校イラスト
 これまでの連載では,「技術・家庭」の「情報とコンピュータ」の学習指導要領における内容や教科書の構成,授業の流れなどを見てきた。ものづくりの姿勢を重視した「技術」からアプローチした情報教育は,高校の教科「情報」とはまた違った視点をもっており興味深い。その一方で,中学校には高校にも通じる課題があることも明らかとなった。
 今回の最終回では,現在の課題や今年告示される新学習指導要領の内容をふまえて,中学校に求められる役割や,今後の情報教育のあり方を考えてみたい。

新学習指導要領での情報教育
 今年は新学習指導要領が告示される予定である。2008年1月にとりまとめられた「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(答申)によると,「教育内容に関する主な改善事項」として,言語活動や理数教育の充実に加えて,情報教育も「社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項」として取り上げられており,ICT の効果的な活用や情報モラルの育成が求められている。教科「情報」も,現行の科目構成を見直し,「社会と情報」「情報の科学」の2科目を設けることが示されている。
 情報教育の目指す情報活用能力は,「発表,記録,要約,報告」といった「言語活動の基盤となるもの」である。今後も各教科の特徴に応じて取り組んでいく必要がある。
 「情報教育」をテーマにした研究会などでは,小学校・高校にくらべて中学校の先生方の集まりが悪いという。また,中学校や高校の情報教育に関わる先生に話を聞くと,お互いの状況を知らないことも多い。興味があっても,情報を得る機会が少ないようだ。これらの原因の1つに,中学校の情報教育が既存の教科であった「技術」に集中しすぎていることがあるのではないだろうか。このことは,次のような状況を招いていると考えられる。
▼「技術」担当教員の意欲の差
 「技術」には旧学習指導要領(平成5年4月施行)からコンピュータの操作や情報活用を学ぶ「情報基礎」という分野があったが,選択履修の一領域にすぎなかった。ところが,現在(平成14年4月施行)の学習指導要領では「情報とコンピュータ」として,実質「技術」の半分を占める大きな領域となったのである。それまでおこなっていた木材や金属を使用した作品製作は大幅に縮小され,「技術の教員として,もっとものづくりに取り組みたい」という思いをもつ先生も少なくないという。情報教育に積極的に取り組む教員もいる一方で,教科部会や授業の内容も「技術とものづくり」中心という教員もおり,先生の意欲によって「技術」での情報教育に差が出る状況となっている。
▼他教科での情報教育の意識の薄さ
 情報教育は本来,小中高の全教科を通じておこなうことが求められている。実際,小学校では,総合的な学習の時間を使った情報モラル教育や,各教科でのICT活用教育も活発になってきている。しかし,中学校では「これまでおこなってきた授業方法をわざわざ変える必要はない,情報教育は『技術』でできるではないか」と思ってしまう先生も多いようだ。これは教科「情報」をもつ高校にもいえる状況である。
▼中学校と高校との連携が難しい
 現在は,情報教育はおもに中学校では「技術」,高校では「情報」でおこなわれている。教科名も違い,それぞれ各校種にしかない特別な教科なので,同じ分野を学んでいるという意識をつくりづらいのではないだろうか。また,情報教育の実践例はまだ少なく,担当の先生方の考えに依るところが大きい。そのため,比較的連携を取りやすい一貫校でも,小中高で担当の先生が異なり,考え方が違っていれば,一貫した情報教育をおこなうことが難しくなってしまう。
 情報教育が話題になりはじめた頃から,小中高を通した体系的な情報教育の必要性は唱えられていた。しかし現在の情報教育は,小中高で独自におこなわれており,体系的な教育への考えが希薄になってしまっている。その結果,入学時の生徒のスキルや知識・意識の差が大きくなったり,同じことを何度も学んだりという状況が起きている。小学校からの情報モラル教育が活発になり,家庭にパソコンや携帯電話などの情報機器が普及した今こそ,改めて体系的な情報教育を考える必要があるのではないだろうか。
 下の表は,文部科学省が提言している情報教育(子どもたちの情報活用能力の育成)の3観点と8要素について,小中高の各段階での取り上げ方をまとめたものである。各段階に合わせて情報教育を確実に実行すると同時に,それぞれの校種での取り組みを把握することで,学習内容の棲み分けが可能となる。さらに,アプリケーションソフトウェアの基本操作など,一度覚えたら後は慣れていけばよいものは1回ですませ,プレゼンテーションなどは最初は制作・発表だけのものから,論理的に考える力がつくにしたがって評価を加える,というように児童・生徒の成熟度に応じてスパイラル的におこなうなど,メリハリをつけた情報教育を実践することができる。 かぎられた時間で効果的な成果をあげることができると考えられる。
 実践報告のページでは,岐阜県羽島市立羽島中学校校長の横山隆光先生に,体系的な情報モラル教育についてご執筆いただいているので,参考にしていただきたい。

 
「情報教育」=「子どもたちの情報活用能力の育成」の3観点と8要素
小学校
身近なものを題材に
体験重視
クラス担任制
中学校
小学校から高校へつなぐ
活用重視
教科担任制
高等学校
広い視野で
考察重視
教科担任制
情報活用の実践力 課題や目的に応じた情報手段の適切な活用 入力装置やアプリケーションソフトウェアの基本操作 課題や目的に応じたアプリケーションソフトウェアの利用 課題や目的に応じた情報手段の活用(情報機器以外も視野に入れる
必要な情報の主体的な収集・判断・表現・処理・創造 図書館やインターネットなど,与えられた情報収集手段の利用 情報検索機能を用いたインターネットの利用 課題や目的に応じた情報収集や表現(情報機器以外も視野に入れる
受け手の状況などを踏まえた発信・伝達能力 身近なものを題材にした発表会の実施 文字・写真・音声などを適切に組み合わせたプレゼンテーションの実施 マルチメディアプレゼンテーションの実施と評価
情報の科学的な理解 情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解 体験をもとにした情報手段の特性の理解 ハードウェアとソフトウェアの構成と特徴の理解 さまざまなシステムや現象の特性や意味を考える
情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解 情報活用の記録・評価・改善 簡単なプログラミングや計測・制御システムを利用した作品制作 アルゴリズムの理解
情報社会に参画する態度 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響の理解 体験をもとにした情報手段の特性の理解 現代社会の特徴から,情報技術の役割や影響の理解 現代社会の特徴から,情報技術の役割や影響を理解し,課題を考える
情報モラルの必要性や情報に対する責任 身近な相手を対象に,していいこと・悪いことを区別する 情報社会の加害者にも被害者にもならない姿勢の理解 法律やトレードオフも視野に入れた行動を考える
望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度 情報社会の危険から自分の身を守ることの理解 情報社会の光と影を考える 社会の一員としての意識をもち,適切に判断して行動する
表 「情報教育」の3観点と8要素から見た体系的な情報教育の例
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