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連載 中学校での情報教育
エデュカーレNo.19より
第1回 中学校の情報教育はどのような教科書を使っているのだろう?
第2回 中学校ではどのような授業がおこなわれているのだろう?
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<INDEX>
第3回  
先生写真

三原市立第五中学校
教諭 橋岡 幸弘
【内容】 情報とコンピュータ
【クラス】 中学3年生
【時間】 8時間(6/8時間目)
 中学校の技術科では,「技術とものづくり」「情報とコンピュータ」の2領域について学習するよう学習指導要領で定められている。 そこで,ロボットを学習内容として扱う際には,ものづくりとして機構やエネルギー変換について学習する場合とコンピュータなどによる制御に ついて学習する場合が考えられる。
 前年度3学期に広島商船高等専門学校の出前授業で,生徒たちはロボットについての学習をした。その後のアンケート結果(Q1)から, ロボットに対して関心が高いことがわかる。
Q1.ロボットに興味がありますか。 生徒へのアンケート
Q2.ロボットを製作してみたいですか。 生徒へのアンケート
 
生徒へのアンケート
 ところが,「製作してみたいか」という問い(Q2)に対しては,「あてはまらない」「あまりあてはまらない」が多くなる。 これは,自分が製作するのは,とてもできそうにないと感じているからであり,生徒たちには, パソコンでプログラムをつくり電気機器を制御することだけでなく,「ものづくり」そのものに対しての経験が少ないからであると思われる (「プラモデルなどをつくったことがある」と答えた生徒は,57%であった)。
 そこで,簡単なロボットの製作と,そのロボットを動かすためのプログラムづくりを教材化した。
 とくに,今回の実践では,自律制御ロボットの操作を通して,「プログラムの機能を知り,簡単なプログラムの作成ができる。 コンピュータを用いて,簡単な計測・制御ができる。(学習指導要領B(6)ア・イ)」ことを学習目標として取り組んだ。
 テレビゲームや携帯電話,パーソナルコンピュータが多くの家庭に普及し,「コンピュータ」は, 私たちの生活のなかに数多く存在していることを実感できるようになった。しかし,それ以外にも, 冷蔵庫,洗濯機,炊飯器,エアコンなどのさまざまな電気機器にマイクロコンピュータが内蔵され, 私たちは気がつかないうちにコンピュータを操作している。かつては人が状況を判断しながらおこなっていた仕事を, あらかじめさまざまな条件を想定したデータとプログラムによって,コンピュータが制御しておこなっている。
 このことにより,私たちの生活は快適になったが,電気機器のしくみなどについての理解は薄まり, ひいてはそれらに対する興味関心が薄まったと考えられる。「別にしくみを知らなくても,使えればよい」 という考えによって,「なぜ?どうしてこうなるの?」という子どもたちの問いかけに,大人である我々自身も答えられなくなっているのである。
 本授業では,同時に2台のロボットを操作することとした。2台を同時に動かすことで,目的の動作をさせるために, 1台のロボットのみを動かす場合と比較しても,より多くの試行錯誤の場面が出てくると考えられ, 問題解決能力が必要となる。また,グループによる相談活動を通して, ほかの生徒の意見をもとに自分の意見を修正しまとめなおす必要があり,コミュニケーション能力や論理的に物事を考える力も重要となってくる。

情報と私たちの生活
パソコンについて
パソコンでできることと,ソフトウェアの利用
情報社会とコンピュータについて
情報化社会と情報モラルについて
マルチメディアの活用→プレゼンソフトの利用
コンピュータによる制御について
情報社会と私たちの責任

1年次の「情報とコンピュータ」の流れ
 この学年の生徒たちは1年次に「情報とコンピュータ」を右図のような計画で履修しており,今回の制御についての学習は, BASIC を用いたプログラムを扱っている。
 今回授業で使用した自律型ロボットは,「自動車」である。製作用キットを使い, 左右にある2つのモーターを何秒間どの向きに回転させるかを入力するだけの簡単なプログラムで操作できるので, 生徒たちがプログラムをつくるための難解なプログラム言語を覚える必要がなく,すぐに作成に取りかかることができた。
 しかしながら精度は完全ではなく,電圧やギアボックスの摩擦など,プログラムによる制御とは無関係の部分で個体差が発生した。 したがって,あらかじめ5秒間で何cm進むかを調べるとともに,左右のゆがみを調整することをした。
動作するロボット
動作するロボット
 授業計画を立てるにあたり,ロボットの動きを段階的に難しくしていくことと,グループとして生徒どうしが関わりをもてるような内容にするには, どうしたらよいかを考えた。そこで,最終的に2台(2人)のロボットを同時に操作し,次の条件に沿った目的の動きをさせることにした。
《 条件 》
2台のロボットを向かい合う場所から同時にスタート させ,50cm 先でUターンする。このとき,2台がぶつ からないように動かし,同時にゴールさせること。
 この条件に取り組ませる前の授業で,それぞれが1台で,50cm 先でUターンさせるときのプログラムを完成させておき, それをもとにプログラムを考えることができるようにさせた。
(1)学習課題

 プログラムを工夫し,目的の動きをロボット(2台)にさせよう。

(2)目標

 ロボットの動きをイメージし,グループ内での話し合いと実験を通して作成したプログラムによって,目的通りロボットを操作する。

(3)学習指導における仮説

 グループによる作業をおこなうことで,論理的に物事を考える力やコミュニケーション能力が高まる。

(4)準備物

 教師:ワークシート,ロボット走行コース,メジャー,修理用の工具,乾電池(予備),パソコン
 生徒:制御ロボット,筆記用具

授業の展開
過程 学習活動 学習活動の支援・説明 評価基準や方法 教材・教具
課題づくり

○本時の学習内容を把握する。「2台のロボットを同時に動かし,目的を達成するプログラムをつくる。」

ワークシートを配布し,本時の学習内容を伝える。

  ワークシート
計画の立案

○ロボットの軌道を描いた図と,前時までに作成したプログラムを確認する。

→グループとして,改良点をまとめる。

→ロボットの動き方について発表する。

・机間指導をして,作図ができているか確認する。

  ワークシート
実践

○図にしたがって,ソフトウェアを利用してプログラムを作成する。

→ロボットにプログラムを転送し,ロボットを動かしてプログラムを改良する。

→改良点を記録用紙に記入する。

→実際の動きと図を比較しながらおこなう。

→完成したプログラムをワークシートに記録する。

○作業を終え,パソコンの電源を切る。

・時間短縮をはかり,あらかじめパソコンの起動をしておく。

・ロボットおよびパソコンの不具合に対応する。

・机間指導をおこなう。

◇ロボットの動作時間短縮など,精度向上をはからせる。

・ほかの生徒と協力して,課題解決に向けたプログラムの作成・改良ができる。

〔工夫〕
[行動観察・ワークシート]
ワークシート
ロボット
コンピュータ

ロボット走行コース

メジャー
修理用工具
パソコン
評価

○プログラム作成における工夫などについて発表する。

○ワークシートに自己評価を書く。

・本時の授業の評価をする。

→目的通りの動きをロボットにさせることができたかを確認する。

  ワークシート
ワークシート
ワークシート
※クリックして表示
 生徒たちの考えたロボットの動作パターンには,次のようなものがあった。
●動作パターン例1
パターン1

@2台を同時にスタートさせる。

A1台(A)を障害物前で停止させ,その間にもう1台(B)が障害物をターン。

B先にターンしたロボット(B)はゴール前で停止。

C(A)がターンしてゴールする直前に(B)を動かし,同時にゴールする。

●動作パターン例2

パターン2

@2台同時にスタートさせるが,1台(B)は動かさず,その間に(A)がターンしてゴール前で停止。

A(A)が停止する直前に(B)が動き出し,ゴールまで移動させる。

B(B)がゴールする直前に(A)を動かして,同時にゴールする。

 このように考えたロボットの動作パターンに沿ってプログラムを作成し,ほとんどのグループが条件をクリアさせることができた。
プレゼンテーションのようす
プレゼンテーションのようす
 授業構造として,「計画」→「発表」→「実験」→「修正」→「実験」→「発表」とし,より正確なデータの収集をはからせた。 その成果として,ロボットの動きをイメージとして予想し,それまでのデータから根拠をもってプログラムを作成できるようになっていたこと, さらに,1つの課題を解決するために,各自が別々に同じことをするのではなく,グループ内で相談し, 役割分担をしてより効率よくデータ収集をしている姿が見られた。
 そこで,ほかのグループの意見を参考にして,よりグループ内での討論を活発化させることをねらいとして, 複数のロボットを関連させて操作するプログラムの作成を課題としたことは,学習効果につながったと考えられる。 また,授業構造のなかにある「発表」は,ホワイトボードなどを活用してグループでおこなわせることで, プレゼンテーションの工夫にもつながった。
 ロボットの動きをプログラムに沿って説明するために,発表内容をグループ内で相談することと, ほかのグループの発表を傾聴する姿勢および発表内容を理解し,自分たちのグループとの相違点を見い出し, プログラム作成に利用する姿が見られた。
プログラムを修正する
プログラムを修正する
また,当初想定していなかった乾電池の電圧変化や個体差も考慮する必要性に迫られ, 臨機応変にプログラムを修正させていた。これらのことから,問題解決の場面が多様になり,学習のねらいを達成できたと考えられる。
 課題として,ロボットが正確に動作しないことにより,プログラムが完成しないという事態が起こることがあげられる。 さらにそのことによる生徒の学習意欲低下も懸念される。今回は,市販のロボットを使用したが, 精度の高い制御ロボットやセンサを付加するなどして,より制御に関する理解を深められる教材に改善していきたいと考えている。
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