情報 >  教科学習情報「情報」 >  トピックス >  新入生の「情報」力−高等教育の現場から

新入生の「情報」力−高等教育の現場から

2006年度より,高校で普通教科「情報」を学んだ学生が大学に入学してきた。この新入生は,これまでとくらべて違いがあるのだろうか。新入生の姿から,高校の教科「情報」のどのような姿が見えるのであろうか。今回は,獨協大学の立田先生と広島国際大学の井山先生に,各大学の新入生の状況とそれに対する大学側の考え・対応をまとめていただいた。



大学生の数学力の現状と情報教育との関連

広島国際大学  医療福祉学部医療経営学科  講師  井山 慶信


1 はじめに

 大学生のコンピュータ操作能力は,小中高での積極的な活用や科目の必修化,携帯電話・コンピュータの家庭への普及などにより,年々向上していると思われる。特に文字入力やメールの送受信,ネット検索の経験は非常に豊富になってきている。また表計算ソフトウェアを使ったことのある学生も少なくない。情報に関する資格を中学高校で取得している学生も増えてきた。

 このように,近年コンピュータに触れる機会が増加し,また最初に触れる時期も低年齢化してきたため,以前は大学入学時に必ず存在していた「まったくの初心者」がいなくなった。基本的操作は全員できるため,以前より授業には入りやすくなったと感じている。その反面,大学入学時での操作能力の格差も年々広がっているが,これは課題の工夫によって対応は可能だと思われる。

 しかし,コンピュータの操作能力は向上したとしても,いざコンピュータを活用して情報の分析などをおこなおうとした際,国語力や数学力といった基礎学力が非常に低下しているため,それが原因と思われる判断ミス・計算ミスがかなり多く見られるようになってきた。ミスをする学生が毎年予想以上に多かったため,筆者は2003年から期末試験の正解率などについて分析をおこなった。その結果について簡単に述べたいと思う。


↑UP

2 授業内容と対象学生

 本学ではすべての1年生に対し,必修科目として「情報処理演習T」という授業(演習)をおこなっている。教える内容はおもに文書作成,表計算,プレゼンテーション,インターネット検索,電子メールで,1コマ90分の授業を30コマ実施している。1クラス35〜50名で,TA(大学院生か4年生)が1名ついている。

 筆者は,医療分野を目指す理系の学科と,福祉や経営を目指す文系の学科の両方を担当している。文系理系によって内容や速度を変えることはしていない。


↑UP

3 分析内容

 学生には毎年期末試験として,表計算ソフトウェアを用いたさまざまな計算問題を解かせている。具体的には,実際の市町村人口をもとに,増減数・増減率の計算や,関数(SUM ,AVERAGE,MAX,MIN,RANK,IF,COUNTIF,SUMIF)を用いた集計などをさせている。

 第一の分析として,この期末試験の問題ごとの正解率について調査をおこなった(2003〜2004年)。

 第二の分析として,単純な問題である増減数・増減率の計算に着目し,表計算ソフトウェアを用いた場合の正解率と,紙に手書きで計算させた場合の正解率とを比較した(2004〜2005年)。

 2006年度からは新たな取り組みとして,入学時に簡単なコンピュータ操作能力のテストと筆記による数学のテストをおこなった。操作能力のテストでは,電源やID 入力からはじまり,ワードプロセッサによる文字入力,そして表計算ソフトウェアによる表とグラフの作成をおこなわせた。数学のテストでは,高卒公務員試験の一般教養数学程度の問題を解かせた。その結果を踏まえ,1つの学科で試験的に能力別クラス分けを実施した。

 第三の分析として,入学時の数学テストの結果と,ク ラス分けによる正解率の変化について考察した(2006年)。


↑UP

4 結果と考察

▼第一の分析


図1 問題ごとの正解率(5学科・191名)

 問題ごとの正解率を図1に示す。

 学生の傾向として,公式通りに解けるものは比較的得意で,非常に複雑なIF 関数でも高い正解率となっていた。その反面,増減数・増減率という単純な引き算・割り算の正解率が予想以上に低い結果となっている。学科によっては,増減数も増減率も正解率が30%台のクラスもあった(このクラスの関数の正解率はすべて50%以上だった)。画面を見れば明らかに間違った数字が表示されているのに,コンピュータが出した計算結果を鵜呑みにしてしまうという傾向が示された。

▼第二の分析

 単純な計算である増減数・増減率の正解率が低くなっている原因を探るため,前回とは異なる学生157名に対し,コンピュータと手書きの両方で解いてもらった。

 コンピュータを用いた場合の正解率は「増減数」60%,「増減率」57%で,前回の68%,52%と大きな差はなかった。手書きでの正解率を見ると「増減数」68%,「増減率」33%と,手書きでもかなり低い正解率となった。次に,個々の学生について,コンピュータと手書きの両方正解,コンピュータのみ正解,手書きのみ正解,両方不正解の割合を出してみた。増減数の問題を図2に,増減率の問題を図3に示す。


図2 増減数の問題

図3 増減率の問題

 同じ問題に対して両方で正解する学生はさらに少なく,特に増減率の問題では「手書きでは計算できないが,コンピュータで式を入れればできてしまった」という学生の割合が31%と非常に高い値を示していた。コンピュータは非常に便利な機械だが,数字の意味を理解していなくても正解らしきものが簡単に出せてしまう。コンピュータを活かすためにも,数学力の向上が急務であると思われる。

▼第三の分析

 入学時におけるコンピュータの操作能力について,電源や文字入力は問題なくおこなえる学生が多く,表・グラフの作成に関しても経験の有無による違いはあるが,全体として極端に能力差があるとはいえなかった。

 逆に数学の学力には大きな差が見られた。図4に理系3学科,文系2学科,計482名の分布を示す。


図4 入学時の数学試験結果の分布

 傾向を見たところ,学科による差は平均点で約31点あった。また同じ学科内でも最高と最低で約80点もの差が生じていた。

 コンピュータの能力差より数学の能力差が大きかったため,試験的に1つの学科(文系)で数学力によるクラス分けをおこなった。筆者は数学の上位クラスを担当し,そのクラスで同様の増減数・増減率のテストをおこなった結果,コンピュータでの正解率は「増減数」57%,「増減率」43%,手書きでの正解率は「増減数」41%,「増減率」29%と,文系とはいえ前回より低い値となった。ほかの学科も含め詳細を分析中だが,全体として数学力の低下は年々深刻な状況になっていると思われる。



↑UP

5 まとめ

 入試制度の多様化もあり,今後も数学力の格差は拡大していくと思われる。表計算ソフトウェア使用時の計算ミスを防ぐためにも,数学力向上の取り組みは急務であると思う。

 コンピュータは非常に便利な道具であり,今後も情報教育の重要性は増してくるだろうが,国語・算数・理科・社会といった基礎学力が十分備わったうえで初めて最大の効果を発揮するものだと私は思う。情報教育の発展のためにも,基礎学力,特に国語・算数の学力向上と結びつけながら,今以上の取り組みをしていく必要があると考えている。


↑UP

(エデュカーレ情報 No.16 掲載)

     新入生が入学以前に受けた一般情報処理教育の調査と結果   大学生の数学力の大学生の現状と情報教育との関連