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新入生の「情報」力−高等教育の現場から

2006年度より,高校で普通教科「情報」を学んだ学生が大学に入学してきた。この新入生は,これまでとくらべて違いがあるのだろうか。新入生の姿から,高校の教科「情報」のどのような姿が見えるのであろうか。今回は,獨協大学の立田先生と広島国際大学の井山先生に,各大学の新入生の状況とそれに対する大学側の考え・対応をまとめていただいた。



新入生が入学以前に受けた一般情報処理教育の調査と結果

獨協大学  経済学部経済学科  教授  立田 ルミ


1 はじめに

 高等学校で教科「情報」が開始された2003年には,新教科導入によって,大学では一般情報処理教育は必要なくなるのではないかと議論されたりした。また,いわゆる操作教育はなくしてもよい,という意見も出された。しかし3年経過した現在はどうであろうか。本稿では,筆者の勤める大学を中心に,新入生の現状と今後の方向について考えてみたい。

 筆者の勤める獨協大学は埼玉県にあり,外国語学部・経済学部・法学部からなる,学生数約8900名の文科系大学である。文科系大学としては早い時期である1968年12月にコンピュータを導入し,1969年よりコンピュータ実習を開始した。初期のコンピュータ実習は,プログラミング実習とアルゴリズム実習であった。このコンピュータ実習という科目は,情報処理,情報処理概論と名前を変え,内容も時代に応じて変化させながら,現在はコンピュータ入門a, bとなっており,クラス指定の選択科目となっている。このコンピュータ入門は,経済学部経営学科で情報コース科目を選択する学生にとっては,2年次以降に置かれているプログラミング論,データベース論,情報システム論,コンピュータアーキテクチャ,コンピュータネットワーク,システムズエンジニアリング,経営数学,情報検索論,情報と職業,情報通信ネットワーク,応用統計学,標本調査論,コンピュータシミュレーション論,マルチメディア論などの基本科目となっている。また,情報コース科目を選択しない学生にとっては,情報の最後の科目となる。コンピュータ入門は選択科目であるが,経済学部のほぼ全員が履修しているので,学部教員からの期待も大きい。

 筆者自身は,大学院博士後期課程の情報処理論特殊研究から学部1年生の科目であるコンピュータ入門まで,幅広く担当している。これは,コンピュータ入門がすべての科目の基礎となっているからである。一方,高等学校で教科「情報」が必須となって2006年3月でまる3年が経過した。さまざまな大学で「情報の2006年問題」として,情報関連科目の見直しがはかられている。また,入試の受験科目として「情報」を導入した大学もある。

 獨協大学経済学部では,教科「情報」が開始された2003年度より,新入生全員に入学以前に受けた一般情報処理教育および家庭におけるコンピュータの利用状況に関する調査をおこなっており,その結果に基づいて,毎年シラバスの見直しをおこなっている。今年度は新たに教科「情報」に関する項目を追加し,4年間の調査結果を比較検討した。その結果,2005年度までと2006年度では,情報リテラシーといわれている内容の学習で顕著な違いが明らかになった。これらの結果と,教科「情報」での受講状況などの実態調査について述べる。また,他大学でおこなっている調査結果,教育委員会でおこなった調査結果,および予備校がおこなった調査結果との比較検討を試みた。


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2 調査内容

 調査は経済学部新入生全員が対象で,入学式後のクラスガイダンス時におこなっている。アンケート内容は,次のようになっている。

(1) 大学入学以前にどんな情報基礎教育を受けたか
(2) プログラミング教育を受けたことがあるか
(3) 現在どの程度コンピュータが使えるか
(4) タイピングがどの程度できるか
(5) 今後コンピュータについてどのようなことを勉強したいか
(6) 自宅のパソコンの保有状況
(7) 使用しているパソコンのタイプ
(8) パソコンの利用経験
(9) パソコンの利用頻度
(10) パソコンの利用目的
(11) インターネットの接続形態
(12) パソコンの新規購入予定
(13) 携帯電話の利用状況

 経年変化をみるため,2003年度から2005年度は調査内容を変えていないが,新しく追加すべき項目も出てきているため,2006年度に次のような項目を追加した。

(1) 情報A,情報B,情報Cのうちどれを学習したか
(2) 教科「情報」を学習した学年
(3) 「情報」で実習した内容
(4) 「情報」の担当者の専任教科

 調査方法は,入学式直後のクラスガイダンス時にアンケート用紙を配布し,その場でマークシートにマークさせて回収することにした。回収した件数は,2003年度新入生776名,2004年度新入生817名,2005年度新入生360名,および2006年度新入生851名である。2003年度と2004年度および2006年度は入学式直後のクラスガイダンスでアンケート回収をおこなっているため,全員から回答を得ることができた。しかし2005年度に関しては,入学式直後のクラスガイダンスでアンケート用紙を配布したものの,時間の関係で回収は各学生が教務課の窓口に持参することになったため,新入生867名中回収率は41.5%と半数以下になった。そのため,3年目は全数調査ではないので,比較が正確ではなくなっている。この経験より,2006年度は入学式直後のクラスガイダンスでアンケート用紙を回収することにした。

 ここで,2006年度新入生851名の出身高校の種別を表1に示す。
表1 出身高校の種別   (新入生867名に対する比率)
国立 県立 市立 私立 その他
0.7 53.6 4.8 36.4 1.9

 表1からもわかるように,県・都・府・道立高校出身者が5割強で,私立出身者が36.4%となっている。
 ※各表の数値の単位は,特に指定がない場合は,「%」である。


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3 新入生の「情報」選択状況

 教科「情報」は2003年度からはじまったが,2003年度における「情報」の教科書採択率は,時事通信社の「内外教育」によれば,「情報A」は83.8%,「情報B」は7.6%,「情報C」は8.6%と圧倒的に「情報A」が多かった。導入から4年経過した2006年度の東京都立高等学校での割合は,表2のようになっている。
表2 2007年度使用教科書採択割合   (東京教育委員会教科書採択結果より作成)
  人数(人) 割合(%)
情報A 171 56.4
情報B 77 25.4
情報C 55 18.2
合計 303 100.0

 表2からもわかるように,2003年度よりも「情報A」が減少して,「情報B」と「情報C」に減少分が移行してきている。

 獨協大学経済学部での調査では,表3のようになっている。
表3 2006年度の「情報」の履修状況  
情報A 情報B 情報C 受けていない その他
49.1 10.0 6.0 28.5 6.3

 表3からもわかるように,教科「情報」を受けていない学生が3割近くいる。しかし,浪人生が26.6%いるので実際に「情報」を未履修の学生は少ない。現在,高等学校における科目未履修が問題となっているが,CIEC(コンピュータ利用教育協議会)の学会誌である「Computer&Education」Vol.21では,“検証,教科「情報」”という特集を組んでおり,そのなかの「高等学校教科「情報」の履修状況調査の集計結果と分析」では,教科「情報」を受けていない者は23.1%となっている。これも浪人生を含んでいるので,未履修の者は数%程度と推測される。

 ここで,「情報」を受けた者で,「情報A」,「情報B」,「情報C」のいずれを受けたかの割合を表4に示す。
表4 「情報」の履修状況(受けた者のみ)  
  人数(人) 割合(%)
情報A 403 75.5
情報B 82 15.4
情報C 49 9.2
合計 534 100.0

 表2と表4を比較してみると,獨協大学経済学部の学生は,「情報A」を受けてきた者が東京都の教科書採択結果よりも多く,その分「情報B」および「情報C」を受けてきた者が少ないことがわかる。

 河合塾が教科「情報」に関するアンケート調査を高等学校に依頼し,2005年6月に集計した結果(公立高校:513校,私立高校203校,回答率:28.9%)を報告しているが,これは公立高校513校と私立高校203校を次のような5グループに分けたものである。

(1) Tグループ(公84,私17):  国公立大学に約200名以上合格
(2) Uグループ(公96,私21):  国公立大学に約100名以上合格
(3) Vグループ(公111,私34):  国公立大学に約30名以上合格
(4) Wグループ(公116,私75):  国公立大学に約10名以上合格
(5) Xグループ(公106,私56):  国公立大学に約10名未満合格

 このような分類で調査した結果を表5に示す。
表5 グループ別「情報」開講種別   (2005年河合塾アンケート結果より作成)
グループ I II III IV V
情報A 52.8 67.3 74.0 74.5 80.0
情報B 23.7 17.3 10.8 10.0 9.0
情報C 23.5 15.4 13.7 14.6 11.0

 表4と表5を比較してみると,獨協大学はグループVまたはWに近いような割合となっていることがわかる。しかし,「情報B」の割合からみると,グループUに近い。

 さらに,興味深いデータが前述の「Computer&Education」Vol.21のなかの,「北海道における実技テストを含めたコンピュータリテラシー調査の分析」に示されている。これを表6に示す。
表6 正解率   (「Computer&Education」Vol.21の資料より作成)
  文字入力
(5分間で100字)
文書の編集 情報検索 平均
情報A 72.6 77.1 88.3 79.3
情報B 77.8 83.3 91.7 84.3
情報C 73.2 82.1 96.4 83.9
平均 74.5 80.9 92.1 82.5

 表6からわかるように,5分間で100文字の入力は7割以上の学生ができる。また,インターネットで情報を検索することは約9割のの学生ができるし,文書の編集も約8割の学生ができる。これは,高校における教科「情報」の成果である。また,「情報B」を履修してきた学生は,「情報A」や「情報C」を履修してきた学生よりも,文字入力や文書の編集の正解率が高いことは興味深い。

 次に,「情報」を受講した学年を表7に示す。
表7 「情報」を習った学年  
1年生 2年生 3年生 1−2年生 2−3年生
45.8 26.8 27.5 11.9 3.0

 表7からもわかるように,半数以上の学生が1年生で「情報」を受けている。このなかで,1年生と2年生にまたがって履修した学生は75名で,2年生から3年生にまたがって履修した学生は19名であり,2年間で履修している学生もいることがわかる。これに関しては,河合塾でおこなった調査と同じような傾向が見られるが,浪人生も含めているので河合塾の調査より3年生で履修している割合が高くなっている。

 次に,「情報」の担当教員の教科を表8に示す。
表8 「情報」担当教員の教科  
情報のみ 数学 理科 外国語 社会
54.6 23.2 17.6 0.8 3.9

 表8からもわかるように,「情報」のみを教えている教員は5割強で,ほかの教員は数学と理科などの担当者が「情報」も教えている。しかし,河合塾が高等学校対象におこなった調査では,表9のようになっている。
表9 「情報」担当教員数   (2005年河合塾アンケート結果より作成)
数学 理科 情報 商業 家庭 社会 英語
34.9 25.3 16.1 6.1 6.2 2.6 2.0

 表8と表9を比較してわかることは,学生は情報のみを教えている先生に習っていると思っているが,実は数学と理科の先生の方がもっと多いということである。

 「情報」の実習として何を学んだかを,表10に示す。
表10 「情報」で実習したもの  
インターネット検索 63.2
表計算ソフトウェア 62.4
ワードプロセッサ 56.1
電子メール 30.0
ウェブサイト作成 29.5
画像作成 19.9
データベース 12.3
プログラミング 6.0
作曲 1.8

 表10からもわかるように,「情報」の実習として,インターネット検索,表計算ソフトウェア,ワードプロセッサが5割以上教えられている。ウェブサイト作成までおこなっているところは,3割程度である。また,データベースは1割強,プログラミングはごくわずかである。

 また,「情報」は受講したが,実習を受けてない学生が29名いた。これらの学生は次のような授業を受けていたことがわかった。
・教科書を読むだけ ・自習
・受験対策 ・数学に振替
・物理に振替 ・英語に振替

 次に,高校の「情報」だけではなく,小学校と中学校も含めた大学入学以前の学習経験の結果を表11に示す。
表11 大学以前の学習経験  
年度 2003 2004 2005 2006
習っていない 48.3 41.9 40.6 17.9
インターネット検索 31.7 40.6 46.9 68.3
ワードプロセッサ 30.3 28.5 28.1 44.3
表計算ソフトウェア 21.6 23.6 23.6 52.9
電子メール 12.4 20.9 17.8 34.1
画像作成 9.9 13.3 11.9 20.4
ウェブサイト作成 6.8 11.5 13.1 28.1
データベース 4.6 5.4 5.3 11.6
プログラミング 4.5 4.5 5.0 5.9
作曲 1.7 2.4 1.7 1.1

 表11からもわかるように,大学以前にコンピュータについて学習していない人の割合は2003年度から2006年度にかけて減少している。特に2005年度が「情報」の完成年度であるので,2006年度入学生の大学以前にコンピュータについて学習していない人の減少の割合が顕著である。

 大学入学以前の学習経験で特に目立つのは,インターネットの利用経験が年々増加していることである。これは,教科の中で調べ学習としてインターネットを利用していることが多いからである。教科「情報」で,インターネット検索しかしなかったと回答していた学生もいたほどである。また,家庭のコンピュータでもインターネット接続が増えているので,いろいろな利用をしている。

 ワードプロセッサや表計算ソフトウェアの学習経験は急増している。特に表計算ソフトウェアの伸び方は著しい。また,電子メールやウェブサイト作成の学習経験も倍増している。これは,北海道大学基盤センターの岡部成玄,布施泉の調査でも顕著にあらわれている。


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4 おわりに

 今回,獨協大学経済学部新入生におこなった調査と,ほかの調査とを比較してわかったことは,出身高校によって「情報」の教育内容にばらつきがあり,さらに「情報」を受講していても個人間で習得状況にばらつきがあるということである。このような学生に対して,同じクラスで同じ進度で教えること自体に無理があるように思われる。このような結果をふまえて,今後は英語と同じように入学時にクラス分けテストをおこない,進度別に教育することを考えなければならない時期にきていると痛感している。

 また,情報処理学会の情報処理教育委員会で教科「情報」の新試作教科書の提案なども出されていることから,これらの内容も参考にして常に新しいシラバスを考えていかねばならない。


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▼参考文献

  • 立田ルミ「新入生が受けた入学以前の情報教育の推移と今後の計画」:
    情報処理学会,情報教育シンポジューム論文集,IPSJ Symposium Series Vol.2006,No.9,pp.283-288,2006年8月
  • 立田ルミ「新入生が入学以前に受けた一般情報処理教育の調査と結果」:
    平成18年度情報教育研究集会,広島大学,情報教育研究集会論文集,pp.283-288,2006年11月
  • CIEC:Computer&Education Vol.21,pp.9-54,東京電気大学出版局,2006年12月
  • 布施泉,岡部成玄「高校教科『情報』と情報リテラシ習得:
    Jsise2006第31回全国大会講演論文集,pp.347−348,2006年8月
  • 情報処理学会情報処理教育委員会:高校教科「情報」シンポジューム―ジョーシン06―資料集,2006年10月
  • 河合塾「教科「情報」に関するアンケート結果報告」

▼参考URL


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(エデュカーレ情報 No.16 掲載)

     新入生が入学以前に受けた一般情報処理教育の調査と結果     大学生の数学力の大学生の現状と情報教育との関連