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解説 2017年に登録された世界遺産

 2017年7月,ポーランドのクラクフで第41回世界遺産委員会が開催され,「「かみ宿やどる島」むなかた・沖ノ島と関連遺産群」を含む21件(文化遺産18件,自然遺産3件)が新たに世界遺産リストに登録された。世界遺産総数は1073件となった(文化遺産832件,自然遺産206件,複合遺産35件)。ここでは,世界遺産のうち新たに登録された文化遺産18件について概要をまとめた。


1.「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群(日本,福岡県)

 日本では21件目の世界遺産登録となる。沖ノ島は,宗像市から約60km離れた,玄界灘に浮かぶ周囲約4kmの島である。中国や朝鮮半島への航路上に位置することから,4〜9世紀にわたって航海の安全と交流の成就を祈る祭祀が行われ,その跡が手つかずのまま現代まで残されている。シルク=ロードを通って運ばれてきたガラス製品や,銅鏡・朝鮮半島製の馬具など約8万点もの宝物(国宝)が出土しており,「海の正倉院」とも呼ばれる。

 今回登録されたのは,沖ノ島及び島に付随する3岩礁(総称して「宗像大社おきみや」)の計4資産と,宗像市から約10km離れた大島にある「なかみや」などの2資産,九州本土にある「みや」などの2資産の計8件からなる遺産群である。沖ノ島・大島・九州本土それぞれの宮には,三柱の女神が祀られており,広大な信仰空間が形成されている。航海安全を祈願する信仰が古代から現在まで断絶なく続いていることなどが評価され,登録に至った。


2.歴史的共同租界,ろうしょ(コロンス島)(中国)

 福建省厦門アモイ市にある小さな島。1903年に共同租界に定められて以降,同島は外国人居留地として発展し,中国と西洋の文化が混じり合った独自の街並みが形成された。17世紀,明の復興を目指し,清への抵抗運動を続けた鄭成功がその拠点を一時置いたことでも知られている。


3.古代イーシャナプラの考古遺跡,サンボール= プレイ= クック寺院地帯(カンボジア)

 カンボジアのほぼ中央に位置し,6〜7世紀に繁栄したしんろうの都イーシャナプラの都市遺跡群とされる。八角形の祠堂や入口に2体の獅子像が配置されたプラサット=タオなど,大小200以上の建造物からなる。これらの建築様式は,のちのアンコール時代に特徴的なクメール様式の土台となった。また,イーシャナプラは,唐僧玄奘の旅行記『大唐西域記』に「伊賞那補羅国」という国名で登場し,その繁栄ぶりが国外に広く知られていたようすが記されている。


4.アフマダーバードの歴史都市(インド)

 インド西部グジャラート州最大の都市。15世紀に独立したイスラーム王朝のアフマド= シャーヒー朝の君主,アフマド= シャー1世によって建設された。市名は彼の名にちなむ。多様な宗教の施設が混在しており,イスラームのモスクや,ヒンドゥー教・ジャイナ教の寺院などがある。近年では,ガンディーによるインド独立運動の拠点として,また,近代建築の巨匠ル= コルビュジエの関連建築物が存在することでもその名が知られている。


5.ヤズドの歴史都市(イラン)

 イラン中央部の都市で,シルク= ロードの交易地として古くから隊商交易などで繁栄したほか,ゾロアスター教の聖地としても知られる。周囲を砂漠に囲まれ,年間の降水量が非常に少ないことから,山麓の水源から地下を通って水を供給するカナートが発達した。


6.ヘブロン/アル= ハリール旧市街(パレスチナ自治区)

 ヘブロン(アル= ハリール)は,ヨルダン川西岸地区南端の都市。聖書に登場する預言者アブラハム(イブラーヒーム)の墓があるとされることから,ユダヤ教・キリスト教・イスラームの共通の聖地である。同地についてパレスチナ自治政府は,パレスチナ人とユダヤ人入植者の対立が絶えないために調査・保全がままならないとして,世界遺産,それも「危機遺産」への登録を強く求めてきた。世界遺産委員会において,パレスチナ自治政府の緊急申請によって登録の是非が問われることになり,事前評価を担うICOMOS(国際記念物遺跡会議)は緊急性がないこと,現地調査の未実行を理由に評価を保留にしたが,例外的な秘密投票という形を経て世界遺産(同時に「危機遺産」)登録が果たされた。これに対しイスラエルは,政治利用であるとして強く反発,国連への拠出金を減らす意志を表明した。


7.アフロディシアス(トルコ)

 トルコ南西部に位置する古代ギリシア・ローマ時代の都市で,市名は愛と美の女神アフロディテにちなむ。都市には女神を祀る神殿,数万人を収容できるローマ時代の競技場,公衆浴場,アゴラなどがある。大理石の産地として繁栄し,彫刻などの美術品が数多く残されている。


8.スヴィヤシスク島のしょうしんじょ就寝大聖堂・修道院(ロシア,タタールスタン共和国)

 スヴィヤシスク島は,ヴォルガ・ウラル地方の都市カザンの西,ヴォルガ川の中にある島。16世紀にモスクワ大公国のイヴァン4世がカザン= ハン国への進出の足掛かりとした場所で,のちにこの地域ではロシア正教への改宗が進められた。近年,現存する古くからの街並みや聖堂内に保存されている16世紀当時のフレスコ画がロシア正教施設の遺産として注目され,同島の再開発事業が行われている。しかし,歴史的にこの地域はムスリムが人口の多数を占めていることから,ロシアによるカザン征服を象徴するものだとして,ロシア正教の聖地を復興させることに対する批判の声もある。


9.タルノフスキェ= グルィの鉛・銀・亜鉛鉱山とその地下水管理システム(ポーランド)

 ポーランド南部に位置する,地下資源の採掘を目的とする施設の遺構群。蒸気機関を使って地下水を汲み上げることで給排水を行うシステムなど,計28の鉱山関連地及び物件によって構成されている。日本の世界遺産である島根県の「石見銀山遺跡とその文化的景観」とは,地下資源の採掘に関する産業遺産という共通点から,共同研究・調査などの相互連携を期待する声もある。


10.16〜 17世紀におけるヴェネツィア共和国の防衛施設群:スタート=ダ=テーラ−西スタート=ダ=マール(イタリア・クロアティア・モンテネグロ)

 ポイタリアのロンバルディアからアドリア海沿岸にかけて点在する,ヴェネツィア共和国が築いた15件の軍事防衛施設を構成資産とする。城壁・城塞・地下トンネルなどが1,000km以上にわたる広大な範囲内で各地に建設された。


11.シュヴァーベン= ジュラにおける洞窟群と氷河期の芸術(ドイツ)

 4万3千年前にヨーロッパに到達した現生人類が築いた,ドイツ南部のシュヴァーベン= ジュラ山脈の6つの洞窟を中心とする遺跡群。出土した人形や楽器などの芸術作品は,世界最古の創作物として注目されている。


12.イングランドの湖水地方(イギリス)

 イングランド北西部の「湖水地方」は,氷河期に形成された地形で,渓谷沿いに美しい湖が点在している。イングランド最大の自然湖ウィンダミアをはじめとする多くの自然景観と,地形を生かして形成された農村や庭園とが融合してできた風景は,多くの芸術家に影響を与えてきた。ピーターラビットの作者ポターもこの景観を愛した一人で,自然景観の維持・保護を目的とするナショナル= トラスト運動に共感し,湖水地方の景観保護に尽力した。


13.南グリーンランド:氷帽周辺部におけるノース人とイヌイットの農業景観(デンマーク)

 グリーンランド南部に位置する同地域2件目の世界遺産。ヴァイキングの住居や農地の跡,イヌイットの遺跡などで構成され,教会や埋葬地・灌漑設備を擁する5つの集落が含まれる。


14.アフリカの近代都市アスマラ(エリトリア)

 エリトリア初の世界遺産。エリトリアの首都で,標高2,350mに位置し,古くから商業の中心地として栄えていたが,19世紀のイタリアの進出を機に軍事基地が建設されて以降,「第二のローマ」として繁栄した。街には20世紀前半のイタリア風アール= デコ建築が軒を連ねている。


15.コマニの文化的景観(南アフリカ共和国)

 南アフリカ共和国北部のボツワナ・ナミビア両国との国境地域,カラハリ= ゲムズボック国立公園を構成資産とする。石器時代以来,現在に至るまで厳しい自然環境で狩猟・植物採集を生業として暮らしてきたサン人の習慣や環境に根差した世界観から形成される文化的景観が広がる。彼らによるものとされるアフリカ南部の岩面壁画には,野生動物などの姿が色鮮やかに描かれ,彼らが古くからもっていた文化の独自性を知ることができる。


16.ンバンザ= コンゴ,コンゴ王国の首都跡(アンゴラ)

 アンゴラ初の世界遺産。ンバンザ= コンゴは,14世紀にアフリカ中部におこったコンゴ王国の都。コンゴ王国は,15世紀のポルトガル人の来訪を機に,同国との交易を開始したほか,西欧の技術や制度を受容した。王国は奴隷貿易の中心地となった。


17.ヴァロンゴ埠頭考古遺跡(ブラジル)

 リオデジャネイロに位置する港湾施設の遺構。1811年に建設が着手されると,奴隷貿易の南米における窓口の一つとなり,アフリカから連行されてきた奴隷約90万人がこの地から上陸した。人類史に暗い影を落とす奴隷貿易と奴隷労働の実態を後世に伝える極めて重要な遺跡である。


18.タプタプアテア(フランス領ポリネシア)

 ライアテア島南東部のタプタプアテアにある野外宗教施設「マラエ」が登録対象となった。「マラエ」とは,神や死亡した部族長の霊魂を祀った祭壇のことで,ポリネシア各地に多数現存し,地域ごとに形態が異なる。このタプタプアテアの「マラエ」は,タヒチの神オロを祀ったもので石造りのピラミッド型をしており,同地域最大級を誇る。


▲図1 2017年に登録された世界遺産  ※図をクリックすると拡大した図が表示されます。
19〜21は以下の自然遺産。
19.ダウリヤの景観群(ロシア・モンゴル)
20.チンハイ西(中国)
21.ロス=アレルセス国立公園(アルゼンチン)


*地図中の数字は,解説で示した番号に対応している。