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特集3 国際協力の現場から
それでしあわせになれますか?
山本 恭平 さん (在インド大使館 外務省在外公館専門調査員)  派遣先:バングラデシュ

 「世界のどこかで自分より苦しい思いをしているのに,それを放っておいて自分はしあわせになれますか?」

 ほとんどの人は笑うでしょうが,自分を開発の世界に駆り立てた問いはこれです。よくある話ですが,マザー・テレサやムハマド・ユヌスに非常に大きな影響を受けました。

 大学時代に1年の休学をもらってウガンダのマイクロクレジット機関でインターンシップをしている時,マラリアにかかって飛び込んだ(無料で治療をしてくれるが設備や対応が悪く,場合によっては賄賂などを渡さないといっこうに治療が受けられない)公立病院で目の当たりにした多くの幼い命が消えゆく光景が,まぶたにこびりついて離れません。永遠とも感じられる待ち時間に耐えきれず,お金を出せばすぐに治療してくれる私立クリニックに逃げ込みましたが,あの子たちはどうなったのでしょう。

 このような体験がもととなり,知人の紹介もあって私は開発における支援者と被支援者の距離が極めて近く,貧困が手の届く距離に潜む,バングラデシュのBRAC大学院に入学を決めました。そして,そこで学んだ開発の知識を実践に活かし,社会のリーダーとして活躍する土台をつくり上げていきたいと思い,当時の研究内容に近い協力隊の職種に応募しました。

 2013年3月から2015年3月までの2年間,バングラデシュのジョショール県庁に村落開発(現コミュニティ開発)隊員として従事しました。当時は,政府の開発事業が住民に及ぼす影響とそれを軽減させる方法を研究しており,村落隊員として従事した職務は地方開発会議の実施促進と開発事業のモニタリングでした。地方開発会議は開発資金の使い道を決定する材料となる重要なものであり,まさに地域住民の生活を大きく左右するものです。


▲村にて開発事業の実態調査を行っている様子

▲地方開発会議で発言をしている様子

 私は協力隊の前後含めて計5年間ほどバングラデシュで生活しました。(最近はだいぶ変わってきましたが)ほとんどのことが交渉で決まるこの国で,買い物1つをとっても戦いです。どこに行っても人がごった返すバザールで人をかき分けながら進み,マンゴーの質に一通り文句を言った後,数分間にわたり値段交渉を行い,やっと品物が手に入るのです。お察しの通り,私が従事していた開発事業の話となれば,より大きなお金が絡むため,話がめちゃめちゃこじれるし汚職もひどい。カウンターパートや地方自治体のリーダーたちとしょっちゅうもめてはやめたくなったりもします。それでも助けてくれるカウンターパートやJICA事務所の人たちがいたおかげで,なんとか自分が企画していた研修事業を完遂することができました。これはスポーツでチーム一丸となって取り組み,勝利をつかんだ時の感動によく似ています。

 振り返ってみると,この感覚の原点は中学校の部活動にさかのぼります。文字通り,朝から晩までテニスボールを追っかけていた時期です。試合に勝ってはチームみんなで抱き合い,負けては涙を流し,部活動にすべてを捧げていました。社会に出てからこういう体験をできる機会は必ずしも多くありませんが,このような観点から見ても協力隊に参加した経験は非常に貴重なものであったと思います。また,中学校の部活動での体験があるからこそ,協力隊時代の生活を充実したものにできたと思っています。

 協力隊の経験は私の軸を形成する一要素となっていることは間違いありません。地方行政というニッチな分野において,私ほどの年齢の人間がこれほど現地に密着した経験を積める機会は協力隊以外には希有です。これは専門家や役人という立場では決して体験することができないものです。ボランティアとはいえJICAの事業の末端に位置する立場であることから,(バングラデシュの場合は)現地政府関係者へのアクセスがしやすいことはとても都合がよいことでした。それでありながら,現地の生活に長期間にわたって溶け込めることから,たった数日間の事業視察などでは決して目にすることができない現実が見えてきます。

 この体験は現在の職務に取り組む上でも非常に役に立っており,ODA 事業に携わっていく上で「日本のやりたいこと」,「相手政府の希望」,「現地住民(裨益者)の希望」など多角的な視点から物事を考察できるようになりました。特に,現地住民の「思い」というものを想像する上で協力隊の活動は必要不可欠なものであると確信しています。


■協力隊に応募を考えておられる方へ■

 「協力隊は自分のキャリアや人生においてどういう位置づけにあるのか?」これをよく考えた上で応募すると2年間という限られた時間を有効に活用することができると思います。また,協力隊は名称的にはボランティアですが,実際には税金より手当てをもらって活動していることも忘れないでほしいと思います。この2つをしっかり自覚できていれば派遣先とあなたの双方にとって,より充実した2年間を送ることができると信じています。