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特集3 国際協力の現場から
ヨルダンUNRWA校での教師経験を通して
高橋 舞 先生 (札幌市立真栄中学校 保健体育科教諭)  派遣先:ヨルダン

 2014 年6月から2016 年3月までの1年9か月間,ヨルダンの首都アンマンから40km ほど南に位置する都市,マダバに青年海外協力隊として赴任しました。

 高校生の頃に青年海外協力隊の存在を知り,「いつか自分も世界に飛び出し,挑戦してみたい」という想いを持つようになりました。しかし,目の前の現実に精一杯だったり,他に優先すべきことがあったりなど,なかなか実現することができませんでした。教員として5年ほど勤めた頃,「今こそ,自分の持っているスキルを活かして,途上国の教育現場に何か貢献してみたい。そして自分自身が広い世界を知ることで,大きく成長したい」と強く思うようになり,協力隊を志しました。現職参加制度を利用し,教員としての身分を残したまま,協力隊に参加しました。

 ヨルダンでは,長年居住しているパレスチナ難民のためにUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)が運営する小中学校で,カウンターパート(協働相手)である現地教師の体育の授業のサポートを行いつつ,授業内容や指導方法改善のための支援を行いました。ヨルダンには,公立学校,私立学校,UNRWA 校があるのですが,UNRWA校は慢性的な予算不足により体育・美術・音楽の選任教師が不足しており,情操教育や実技教科が軽視されて授業が行われていない学校も数多くあります。私が赴任した学校には現地の体育教師がいたので,指導内容や方法の見直しを行うとともに,体育の授業を通して子どもたちの心を育てることに重点をおいて活動しました。また,定期的にヨルダン国内の意欲的な体育教師がいるUNRWA 校に巡回指導を行い,年に2度,それらの学校を集めてスポーツイベント(長縄跳びやポートボールの大会)を開催しました。


▲校庭での小学5年生の体育の授業

 ヨルダンでの活動は一筋縄ではいかず,日本の常識は世界の非常識なのかとさえ感じたこともありました。体育の授業は校舎の中央にあるコンクリートでできた狭い校庭で行うのですが,カウンターパートは暑すぎても寒すぎても,何かにつけて授業をなくしたがりますし,体育の授業で生徒が声を出すとうるさいと迷惑がる同僚もいました。また,宗教上の理由から女子が体育の授業を受けることを嫌う父親がいて体育の授業を受けられない子がいたり,そもそも大人たちのほとんどが体育の授業を受けたことがありませんでした。このような状況の中で,体育という教科の魅力や必要性をいかに伝えていけばよいのか,日々模索していました。体育だけでなく,情操教育が子どもたちの心を育てるのに重要な役割を担っていると感じ,美術や音楽の授業も進んで試みていました。また,生徒はゴミをどこにでも捨ててしまったり,順番を守れなかったりするなど,モラルやマナーの面で日本との違いに苦労することもありました。現地の現状を踏まえつつも,教育活動全体で子どもたちを育てていく日本の教育の要素も少しずつ紹介していき,同僚に理解を求めていくことに努めました。

 一方で,ヨルダンではおおらかな雰囲気の中でのびのびと教育を行っていると感じました。授業中の教師からの発問にはほとんどの生徒が手を挙げて発表しようとしますし,中高生でも主体的に授業を受けている姿勢が見られました。また,UNRWA 校では小学1年生から英語教育が行われており,中学生くらいになると流暢に英語を話せる子もいますし,失敗を恐れずに積極的に英語でコミュニケーションをとろうとする子どもたちもたくさんいました。


▲子どもたちは日本の文化に興味津々。折り紙も上手

 日本に届くイスラームの情報が非常に限られているということもあり,赴任前は「中東=危険」「イスラームは過激」というイメージがやはり心のどこかにありました。しかしそれは一部分であり,中東すべてがそんなわけではないことを知りました。ヨルダンは治安がよく,身の危険を感じることはありませんでした。人と人とのつながりが深く,目があえば挨拶を交わし,困ったことがあるとみんなで助け合うといった,イスラームの教えのもとに成り立つアラブ文化の温かさに安心感を持って過ごす日々でした。また,イスラームの女性は窮屈そうだと勝手に思っていましたが,実際はヒジャブ(ヘジャブ,頭に巻く布)でのオシャレやメイクも思いきり楽しんでいますし,彼女たちの中には「女性は大切にされている」という想いがあるため,宗教を窮屈に思っているように感じませんでした。

 教育現場に復帰した今,私ができることは自分が見たことや触れたことを多くの生徒たちに伝えることだと思っています。私の体験談をきっかけに,遠く離れた世界のどこかで起こっているニュースに興味を持って目を向ける生徒たちが増えることを期待しています。高校生のみなさんには,日本にいながらに世界中の情報が入る便利な世の中だからこそ,広い世界に目を向けてたくさんのことを知ろうとし,いずれは自分自身で世界を見て,自分に何ができるのかを考えて羽ばたいていってほしいと願っています。